第48章 虚々実々(きょきょじつじつ)
ひなが遠い目をしていると、隣にいた家康が丁寧に教えてくれた。
『朝倉義景は、前に捕らえた足利義昭や顕如達と、織田軍の包囲網を敷いて敵対してる越前の国の武将。
おおかた義昭が捕まった事を耳にして慌てたんだろうね。
顕如は一向に討って出ないし、包囲網の一人、武田信玄も信長さまと同盟を結んだなんて、寝耳に水な話だったろうし。』
(な、なるほどー。)
『歴史音痴な私には、まだ今一つピンときてないんだけど…信長さまって敵、多過ぎじゃない?』
『天下人になると言うのは、そういう事だ。信長さまは、いつでも、激しい戦いの中で生きておられるんだ。』
反対側にいた秀吉さんが、眩しい物でも見るように目を細めていた。
『更には、それに付き従うように、若狭の浅井長政(あざいながまさ)も戦支度に入った様子とのことでございます。』
『腰の重い朝倉が、とうとう痺れを切らしたか。』
口の端を上げて他人事のように感想を述べる信長は、どこか楽しそうだ。
(浅井長政は聞いたことがあるな。「あさい」じゃなくて、「あざい」って読むんだぁ、って思った記憶がある。)
『しかし、義理とはいえ、弟と戦う事になるとはな。』
『弟?だれが?だれの?』
思わず口にした言葉を信長は聞き逃さない。
『お前も俺の妹になったのだ。詳しくとは言わんが、俺の家族構成を勉強しないとな。』
そう言って、手招きする。
(う…楽しい朝御飯の時間がぁ…っ!)
『ふっ、楽しい朝餉の時間が、楽しいお勉強の時間に早変わりだな。』
光秀が からかう。それを横目に見ながら立ち上がり、ひなが信長の前まで進み出た。
『くくっ。至福の時を奪うつもりはない。後で好きなだけ ゆっくり食べるがいい。
さて、浅井家だが。俺の妹の一人『お市』が嫁いだ先だ。』
(お市…。この名前にも聞き覚えがある。確か絶世の美女だったとか…。)
『とても美しい方だと聞いたことがあります。』
『ああ。お前同様、俺の自慢の妹でな。出来れば争いたくは無い…。』