第47章 前程万里(ぜんていばんり)
すると、バシンッ!と背中を大きな手で叩かれて倒れそうになる。
(痛った…。)
『なーに へこんでんだ!宴なんて、またいつでも出来んだろ。』
(慶次?)
『お前は、とにかく怪我を治せ。で、治ったら一番に知らせに来い。すぐに雁首揃えてやるよ。』
にいっ、と目を三日月にして慶次が笑った。
『アリガトー。』
唇だけを動かして、ひなが礼を伝える。
『おう。待つ間も楽しいもんだ。』
『それでは、慶次さまに お知らせになられた後は、私にも教えて下さいね。
あ、お返事は頷くだけで結構ですよ。』
三成も、優しく微笑んで気遣ってくれる。その言葉に甘えて しっかりと頷いた。
『ほら、待たせたな、ひな。心太(ところてん)だ。これなら食えるだろ。』
(わぁ…艶々して美味しそう!)
『で、これも。少しだけな。』
『?』
『「酒」が飲みたかったんだろ?一応、酒だ。飲んでみろ。』
政宗に即されて一口飲む。
(ん?甘い。)
『それは「甘酒」だ。酔わない酒ならいいだろ?家康。』
政宗が振り返り家康に尋ねる。
『…そうですね。甘酒は体にもいいですし、酒じゃ無いですし。』
不満げな家康の顔に、政宗と顔を見合わせて微笑んだ。
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心太を食べ終わると、皆から「早く部屋に戻って休め」と せっつかれ、ひなは一人 自室にいた。
少し開けた障子の隙間から細い月を見上げ、今日の出来事を振り返る。
(なんだか怒涛の一日だったな。)
はぁ、と溜め息をつくと、喉の奥がチリつく。
(喉の火傷が治ったら、信玄さま達にも挨拶に行きたいな。)
そんなことを呑気に考える、この時の ひなは、これから巻き込まれる新たな戦の事など知る由もない。
*前提万里~これから先の目的地までの道のりが遠く長いこと。または、将来に大きな可能性があること。