第47章 前程万里(ぜんていばんり)
家康が気圧されて、一歩引く。
『…まさかとは思うが。』
政宗が、その様子を見て言った。
『お前、飯が食えないから、むくれてんのか?』
『…!!』
ひなが声にならない声を上げる。
(さすが政宗!だって政宗の料理 食べれるの、楽しみにしてたんだもん。でも…。)
『それだけじゃないんだろう。「これじゃ酒も呑めない」と言ってるみたいだぞ。』
秀吉が困った顔で付け足した。ひなが、うんうん!と力強く頷くのを見て、武将達がホッとした顔を見せる。
『全くお前ってやつは。それだけ飲食欲があればひと安心だが、少しでも体調がおかしいと思ったら、すぐ俺に言えよ。』
口パクで「はい。」とだけ答える。
その時、じーっと見詰める ひなの視線に気付いた家康が、
『酒は冷たい水じゃ無いから。それはもう呑兵衛の考えだから。』
と釘を刺す。
(えぇぇーっ。冷たい飲み物なのにー。)
解り過ぎるほどにショボンとする ひなの姿に、場の空気は和んだようだ。
『仕方ねぇ。なんか柔らかい甘味でも作ってきてやる。』
よっ、と立ち上がり、政宗が台所に消える。
『一週間もすれば治るから、それまで我慢するんだね。
大体お酒は呑む時は冷たくても、呑んだ後に体温上がったりして火傷した喉には良くない。しばらくは酒、禁止。』
ひなが目を見開き、ぶーっと口を尖らせると、家康が ぶつかりそうなほど顔を近付けた。
(わっ!)
『今の「ひょっとこ」みたいな顔、鏡で見せてやりたい。それ以上 目、見開いたら、目玉が溢れるんじゃない?』
ひなは条件反射でギュッと目を瞑る。
『この状態で目、瞑るって…口付けでも されたいの?』
(あぁっ、そうじゃなくてっ!)
小刻みに首を横に振って反論する。
『家康、俺の妹をからかうのは、そのくらいにしておけ。それから、今日の宴はお開きだ。』
広間に信長の声が響き渡る。
(信長さまも皆も忙しい中 集まってくれたのに…。)
やるせない気持ちが溢れる。