第47章 前程万里(ぜんていばんり)
振り向くと、多くの家臣たちが鎮火にあたっており火は消えかけている。
牢屋の中に燃えるものが少なかったせいか、そう酷い火事にはならなかったらしい。
光秀は、少し離れた木の下に ひなを座らせた。
『一体なにがあったというんだ。一人で地下牢の方へ向かっていたから、気になって着いて来てみれば…。
取り敢えず飲め。』
光秀が、手にしていた竹筒を差し出す。頷き、震える手で受けとると、ゴクリと一口その水を飲んだ。
今になって襲ってきた恐怖と申し訳なさから、顔が上げられない。
そんなひなを安心させるように、光秀は暫く その背中を優しく擦っていた。
『…もう、ダイジョブ…デス。』
まだ掠れる声で、ひなが告げる。
『大丈夫そうには見えんが、いつまでもここにいたって仕方ない。広間へ戻るぞ。』
こくんと ひなが頷く。光秀は先に立ち上がり、
『ほら、掴まれ。』
と、手を差し出した。
その手を掴んでひなも立ち上がると、並んで広間へ向かう。
… … …
広間では、武将達が心配そうな顔で ひなの戻るのを待っていた。
『ったく、楽しい宴が始まるってぇ時に…帰蝶の野郎。』
慶次が苦虫を噛み潰したような顔で ぼやく。
『警備は厳重にさせたつもりだったが…俺が甘かったようだな。あやつの手管を見誤った。』
信長も自分の対応を悔いる。
そこへ、光秀に連れられて ひなが戻ってきた。
『ひな!』
『ひなさま!』
皆が口々に憂慮(ゆうりょ)の言葉を掛けた。申し訳なさそうに ひなが頭を下げる。
『少し煙を吸ってしまったらしい。今は声が出し辛いようでな。』
光秀が ひなの気持ちを代弁する。
『家康、火傷の程度を見てやってくれ。』
『…解りました。』
すっと武将達を掻き分けて、家康が ひなの前に出る。
『ひな、ここ座って。口、空けてみて。』
言われるがまま座り、口を空ける。家康は、そっと口元に手を添えて、ひなの喉を診る。
『確かに軽く火傷してるね。ゆっくりでいいから、暫く冷たい水、飲んでなよ。』
チラリと手元の竹筒を見ながら言った。そんな家康を、ひなが恨みがましい目で見詰める。
『なに?』