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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第47章 前程万里(ぜんていばんり)


『ち、近寄らないでください!』

ひなは、しゃがんだまま後退りする。

『…安心しろ。お前のように男勝りで色気のない女に興味はない。暫く安土を離れるので別れの挨拶をしようと思っただけだ。』

(安土を離れる?)

『逃げるつもりですか!?何処へ逃げたって、きっと信長さまは、あなたを見つけます!』

『ああ、だろうな。だから…』

スッと体を屈め、帰蝶が ひなの耳元に唇を寄せる。

『だから、その前に信長を殺せ。でなければ、お前の大事な物を 1つずつ奪う。』

『大事な…物?』

ゾクリと震えながら、ひなが自分の耳を押さえて尋ねた。その問いかけには答えずに帰蝶が告げる。

『そろそろ逃げた方がいいぞ。俺の斥候が牢に火を放った。ここも直(じき)火の海になるだろう。

兎の丸焼きが出来上がる前に逃げろ。』

(兎…って私のこと!?)

『それとも、俺と一緒に来るか?』

ひなは、ぶんぶんと首を振って拒否する。

『気が変わったら、いつでも来い。』

そう言い残すと立ち上がり、帰蝶は闇の中に消えていった。

『来いって…何処にですか!ゴホッ!ゴホッ!』

(いけない、地下に煙が充満し始めてる!思いっきり吸っちゃった…。)

着物の袖で口元を押さえた時、先程 帰蝶に渡された薬を握りしめたままだったことに気付く。

(いつ会えるかは解らないけど、その時に ちゃんと返さなきゃ!)

薬包紙を帯の中に隠し、低い体制のまま壁伝いに進む。


(はぁ…はぁ…出口まで、こんなに遠かったっけ…。)


『帰蝶さん、何度も火事場に出くわしてる私を甘く見たら後悔しますからっ!』

帰蝶への怒りで、折れそうな気持ちを無理矢理 奮い立たせた。


(あっ、月明かり!)


ひなは、やっとの思いで外に転がり出た。

『ひな!!』

(あれ、なんでこんなとこに光秀さんがいるんだろう。)

『み…ツヒデ、サ、ン…?ゴホゴホッ!』

(ヤバイな、さっき煙を吸い込んだせいか、上手く声が出せない。)

『煙を吸い込んだのか?喋らなくていい。兎に角ここを離れるぞ。』

光秀に腰を支えられながら、牢屋から遠ざかる。
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