第47章 前程万里(ぜんていばんり)
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安土城の大広間にて。
宴の準備が着々と進んでいた。
『政宗、私も手伝うよ。』
『お前は今日の主賓だろ。大人しく高座に座って信長さまと談笑してろ。』
政宗が、ひなの手から料理の乗った皿を奪う。
『え、でも…。』
『でもじゃないだろ。ゆっくりしとけ。』
空いた方の手で優しく頭を撫でられ、「わかった。」と言うしかない。
(信長さまの横で談笑する自信は…ないな。黙ってるのも落ち着かないし…そうだ。
皆が宴の準備で忙しい今なら、あの人に会う いい機会かもしれない。)
ひなは、さりげなく広間を出ると、なるべく人と会わないように進む。
『ひな?』
その後ろ姿を光秀に黙視されていることには気付いていない。
『あいつ、もうすぐ宴が始まるというのに何処へ行くのだ?
向こうには何も…。もしかして。』
光秀は静かに その後を追った。
辿り着いたのは、地下にある牢獄だ。
門番には信長から伝言があると嘘をつき、中に入れて貰った。
(うぅっ、さすが地下牢…暗いし寒いし陰気な感じだな。
というか、こんなとこ人生で初めて入るから、他がどうなのかは解んないけど。)
ビクビクしながら歩を進めると、一番奥の牢獄に見知った顔がある。
じゃりっ、と足元の小石が鳴って、その顔がこちらを向く。
『ひな?』
僅かに眼が見開いて帰蝶が言う。
『あ…えっと、こんばんは。』
(捕まってる人に こんばんは、も変だけど。)
『何故このような所にお前が?そろそろ鼠に喰われたかと確かめに来たか?』
特に驚いた様子もなく、帰蝶が問う。
『そんなんじゃありません。少しだけ、お話をしてみたいと思っただけです。』
視線を落とすと、帰蝶の手の甲に傷が見えた。
(あれって…私を拐った船の上で、誰かに撃たれた傷…だよね。)
『痕が残っちゃいましたね。』
ひなが気遣うように言葉を掛けた。