第46章 番外編☆忍(しのび)だって目立ってみたい
『佐助くん、いるー?』
『おや、ひな姫さま。』
襖の外から聞こえる声に、蔵人がいち早く気付く。
『皆、こちらだ!』
源藤斎が襖の向こうに声を掛ける。
スススッと襖を開けて、花の香りと共に ひなが入ってくる。
『良い香りですね、その花。どうされたのですか?』
半蔵がクンクン鼻を動かして匂いを嗅いでいる。
『あぁ、これ?梔子(くちなし)です。顔見知りになったお茶屋のご主人が、たくさん咲いたから、って切り花にして下さったんです。
私この香り、とっても好きで。』
『好き…。』
佐助が繰り返す。
『あ、佐助くんも好きなんだ。それじゃ…』
ひなが、切り花を半分に分け、佐助に手渡す。
『はい、佐助くんの部屋にも飾って。』
『ああ、ありがとう。』
佐助は、ひなの手から梔子を受けとると、心の中で呟く。
(梔子の花言葉を知っているだろうか。
1つ目は、君が「着物に香を焚き染めた人」の事をそう言った『素敵』、そして、もう1つは…。)
『へぇ~!佐助も そんな もの柔らかな顔するんだねぇ。』
蘭丸が目を見張る。
『俺は、ひなさんが そうして笑ってくれているだけで幸せだ。』
『えっ!?』
突然の愛の告白じみた発言に、ひなの顔が火照る。
(花言葉の もう1つは、『とても幸せです。』)
『佐助は十分、目立っていると思うのは俺だけか?』
源藤斎は、二人のやり取りを眺めながら、そう思うのだった。