第1章 嵐の中へ
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およそ三十分後。
今は他のお客さんもいないから、と簡単に髪も結って貰い店頭に戻る。
『あのー、どうでしょう?似合ってますか?』
片付けをしている佐助に声をかける。
佐助は僅かに目を見開き固まっていた。
『えぇ、とても…。その着物の柄は「桜文(さくらもん)」と言って縁起の良い物事の始まりを意味するそうです。
今日はなにか良いことが起きるもしれませんよ。』
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『たまには着物もいいよねぇ。うーん、でもお昼食べ過ぎてちょっと苦しい…。』
(もう少し、この辺りを歩いてみよう。そうだ、確かこの辺に…。)
ひなはパラパラと例のガイドブックのページを捲る。
『あった!』
【本能寺跡】と書かれたページを開く。
今はただ、道端にひっそりと石碑か建っているだけた。
(ここがあの有名な本能寺があったところなんだ…。)
と言っても、本能寺の変でお寺が焼け落ちてから確か別の場所に建て直されたはずだ。
ポツ…ポツポツ…。
(わ、雨!傘持ってないのに…。借り物の着物が濡れたら大変!)
ひなは慌てて近くの家の軒下に入る。
(雨 降るって言ってたっけ?)
天気予報を見ようとバックの中のスマホを探す。
『あれっ?無い…?私どこかに落とした…?』
そうだ!
さっき写真を撮りたくてバックから出して、呉服店の畳の上に置いて来ちゃった。どうしよう。
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その頃、猿飛呉服店では。
『ん?』
佐助が、小上がりで何かを見付けた。
『ピンク色のスマホ…?』
さっきの彼女が忘れて行ったのか。
まだそんなに遠くへは行ってないはずだ。
慌てて入り口の扉を開けると、今にも雨が降りそうな雲行きだった。
佐助は立ててある傘をひとつ掴み小走りでひなを追いかけた。