第1章 嵐の中へ
私はホントに ごくごく普通の会社員、田中ひな。
今は…付き合ってる人はいないけど、毎日忙しく仕事に追われてる。
今日は思いきって長期の休みを取り、前々から来てみたかった京都へ1人旅。
『えへへ、それにしても運が良かったな。』
たまたま歩いていた路地裏で、ひなは、今だけ無料で着付けをしてくれる呉服屋さんを見付けたのだ。
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『猿飛(さるとび)…呉服店?』
入り口には
「今だけ無料☆着物を着て京都を散策してみませんか?」
と張り紙がある。
ひなが、張り紙を じーっと見ていると、カラカラ…っと扉が開いて着物姿の男が声を掛けてきた。
『こんにちは。気になられたのなら試して行かれませんか?もちろん見学だけでも構いませんよ。』
着物の良く似合う、すらりとした眼鏡の男だった。
それなら…と足を踏み入れる。
『猿飛呉服店の三代目で、佐助と言います。』
(猿飛佐助…?)
面白そう、と旅行に行く前に買ったガイドブックに、そんな名前があったような?
そのガイドブックの名前は…
【イケメン武将トラベルガイド】!
(世の女性達は「イケメン」という言葉に弱いもんね。)
その上、説明も丁寧でとても解りやすい本だったのだ…。
『わぁ~!』
色とりどりの着物が店内に所狭しと置いてある。
『どうぞ手にとってご覧下さい。』
ひなはペコリと頭を下げ、ぐるりと見て回る。
(あ、これ可愛いかも。)
ピンク色のグラデーション生地に桜の華が舞っている着物に目を奪われた。
『お似合いになりそうですね。試しに着付けてみましょう。こちらへどうぞ。』
『えっ!?』
『ふふっ。安心してください。着付けは女性がやりますから。』
勘違いした自分が恥ずかしい。
俯きなから佐助に着いて店の奥へ進む。