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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第45章 意馬心猿(いばしんえん)


(本当は今すぐにでも会いに行きたい。そんなこと二人の前で言えるわけなどないが。)

『今ほど、天女の羽衣を羨ましいと思ったことはないな。』

信玄がポツリと落とした呟きに、どういう意味かと若い二人は不思議顔だ。

『なんでもない。気にするな。ところで、佐助。』

『はい。』

『お前も疲れただろう。少し休んでから行ったらどうだ?幸も寂しがってた事だしな。』

『なっ、なに言ってるんですかっ!俺は別に寂しくなんかないです!』

幸村が激しく否定する。

『バカ話 出来なくて、ちょっとつまんなかっただけで…。』

語尾が自信なさげに萎んだ。

『はっはっ。世の中では、それを寂しいと言うんだ。』

『俺も幸村と、俺の時代に戻ってたときの事とか話したい。実は土産を買ってきた。子供から大人まで、みんな大好き、京都の銘菓「阿闍梨餅」』


(*「阿闍梨餅」…あじゃりもち。もち米等で作ったモチモチの生地に、つぶ餡がたっぷり入った焼き半生菓子。美味♪)


佐助に言われて、幸村が頭を掻く。

『…お前は店の回し者か。あーもう、解ったよ!ここじゃ信玄さまの邪魔になる。俺の部屋に行こう。』

『くっくっ、幸も菓子に釣られるんだな。』

『信玄さまにも、お裾分けを。』

佐助が菓子折りを信玄に手渡す。

『信玄さまは食べ過ぎねぇように!』

解った解った、と言いながら既に箱を開けている信玄を尻目に、二人で部屋を出る。

話したいと言いながら、二人は黙ったまま横に並んで歩く。

痺れを切らして幸村が言った。

『あの嵐、相当 珍しい天候だって聞いた。よく戻れたな。』

『ああ。昔取った杵柄(きねづか)ってやつだ。戻りたい一心で天候の事やらなんやら研究した。

ほら、俺って頭いいから。』

にーっ、と佐助が口の端を持ち上げる。

『ブッ!佐助が頭いいのは認めるけど、てめぇで言うか?普通。』

『ハハッ、幸村なら突っ込んでくれると思った。』

楽しげな笑い声が、暫く城に響き渡っていた。



*意馬心猿~煩悩や情欲のせいで心が混乱し落ち着かないさま。また、心の乱れを押さえることができないことの例え。
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