第45章 意馬心猿(いばしんえん)
(途中まで兼続目線で進みます。)
~~~時は少し戻る…~~~
ここは越後の国、春日山城。
その一室で一匹の龍が…くだを巻いていた。
『酒だ。もっと強い酒を持ってこい。』
『ははっ!し、しかし、城に これ以上強い酒はもう…。』
謙信は、そう告げる家臣に冷ややかな視線を落とす。右脇に置いた刀をスラリと抜くと、家臣の目の前に切っ先を向ける。
『…なければ買ってこい。』
『ひいぃぃぃ!!』
もんどりうちながら家臣が広間を出て行った。真っ青な顔で出ていく家臣を横目に、兼続が広間へ足を踏み入れる。
『謙信さま、さすがに飲み過ぎです。毎日そんなに飲まれては、お体によろしくありません。』
『貴様には関係ない。己の体は己が一番よく解っている。』
(それが解っていないから心配なのだ。)
はぁ、と溜め息をつき、兼続が謙信の手から力付くで杯を奪う。
パシャッ!
反動で、並々と注がれていた酒が兼続の顔を濡らした。
『…。』
(そういえば、あの時も…。)
~~~ ~~~ ~~~
ぶーっ!
(…なんだ?これは…酒か?)
『ごめんなさい!すみません!私が悪うございました!』
(ひなから酒を吹き掛けられたのか…。どうせ謙信さまに何か言われたのだろう。)
『構わん。』
(わざとやったわけでも あるまいし。)
『わざとじゃないんですっ。急に謙信さまが突拍子もないことを仰ったもので…。』
(やはりな。)
『気にするな。』
『あぁっ、濡らした手拭いじゃないと お酒の匂いが取れないかな。』
(こいつ、聞こえていないのか?…細い手首だな。)
『だから…!もういいと言ってるだろう。そんなに拭かれたら俺の顔が擦れて無くなる。』
(こうでも言えば、笑うか?)
『えぇっ!?すみません。』
(何故そんなに不安げな顔をするのだ。伝わらなかったか。)
『お前、冗談というものを知らないのか。多少 擦ったくらいで顔が消えたら怪異だろう。』
『…確かに。』
(まったく。バカがつく程素直な女子だ。)
~~~ ~~~ ~~~
(バカがつく程…惹かれる女子だった。)