第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
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政宗に宴の料理を依頼し、再び家康の馬に揺られること少し。二人は安土城に着く。
『色々とありがとう、家康。家康も、このまま安土城に居て、宴に参加するでしょ?』
『そのつもり。信長さまに用もあるし。じゃ、俺は馬を繋いでから行くから。』
『そうなんだ。それじゃ、また後でね。』
にっこり笑いながら城の中へ向かう その背中に、家康の声が落ちた。
『また後で、か。こんなに嬉しい言葉だったとは知らなかった。』
ひなは中廊下を歩きながら考えていた。
(一度、自分の部屋に戻ろう。っていうか、いきなり居なくなったんだもん。もう私の部屋は無い…か。)
部屋の前に辿り着き、ゆっくりと障子を開く。
『……!』
そこには、居なくなる前と寸分たがわぬ光景があった。
ただひとつ違ったのは、衣桁に桜紋の着物がかけてあることくらいだ。
『私がいなくなった後も綺麗にしてくれてたの?あ、この着物…。』
ピンク色の着物を、そっと撫でる。
(…もしかして、みんな覚えててくれた?この着物のこと。)
『色んなことがあって私の方がすっかり忘れてた。佐助くんに返さなきゃだよね。』
(佐助くんも、無事にこっちに来れたかな。)
『それは君が持ってて。』
ふいに頭の上から声がした。
(この声…。)
ハッとして上を向くと、開いた天井裏からヒラリと佐助が飛び降りた。
『その着物は君に着られたがってる。』
『佐助くんっ!』
ひなは無意識に佐助に抱き付いていた。
『おわっ!』
倒れないように後ろ手を畳に付いたあと、佐助も同じように抱き締め返した。
『良かった。元気そうで。』
『佐助くんも!…っ、ごめん。』
ひなが申し訳無さげに体を離す。
『俺はこの体制のままでも…。』
ブンと一度 頭を振って佐助が尋ねる。
『いや、ひなさんは、もう織田軍の武将達に挨拶出来た?』
『うん。あ、さっきまで家康といたよ。今夜は皆が私の為に宴を開いてくれるんだって。』
『家康さん…!一歩遅かったか。』
心の底から佐助が残念がる。
『また会えるよ。』