第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
家康の居城に招かれ、ひなは心行くまで政宗の羊羹を堪能した。
『はぁ~、美味しかったぁ。』
『ピィ~。』
『ふふっ。』
少しだけお裾分けを貰えた わさびも満足げだ。
『政宗さんの腕は本物だな。』
家康も、ワサビ味の羊羹をペロリとたいらげたようだ。
『さて、それじゃ そろそろ政宗さんのところへ行くよ。馬で送ってく。』
『うん。ありがとう。』
連れられるまま、家康と馬小屋へ向かう。馬小屋に着いて、ひなは思った。
(ん?信長さまの馬小屋に比べると随分と…。)
『簡素だって言うんでしょ?』
『えっ!』
『顔に書いてある。いいんだよ、これは俺のこだわりだから。
夏場は涼しく冬場は暖かく…なんて甘やかして育てたら、戦場では2~3日で死んでしまうと思う。
だからなるだけ自然と同じような環境にしてる。』
『そうなんだ。』
言われて見てみると、簡素な馬小屋に反比例して馬達の毛並みは艶やかだ。
口では厳しい事を言っているが、大切に育てているのが良く解る。
『この黒毛の馬は白石(しろいし)。こいつで連れてく。』
言うが速いか家康は愛馬に股がり、ひなを引っ張り揚げる。
『うわっ!』
ぐん、と視界が高くなり、ストンと前に座らされる。家康が手綱を掴み、ゆっくりと馬を歩かせる。
振り返り、間近でその姿を見ながら ひなが言った。
『自分でも馬には乗ってたけど、なんか家康が馬に乗ってるの、不思議な感じ。』
『は?これでも俺、一応 武将だからね。馬くらい乗るでしょ。』
『それはそうなんだけど、そういうことじゃなくて…馬に乗ってる家康も格好いいなと…思っただけ!』
思わず口をついて出た言葉が恥ずかしくて、くるりと前に向き直る。
『…。』
(武将に向かって何言ってんだ、って思われてるよね。恥ずかしすぎるっ。どうかスルーしてくれますように!)
家康は誉められた嬉しさになのか、恥ずかしがるひなの姿の可愛さになのか、頬が緩むのを必死に堪えた。