第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
… … …
ひなを乗せた籠が、えっさ、ほいさと小気味良いリズムで走る。
(最初は籠も乗るの怖かったけど、今は遊園地のアトラクション的な楽しさがあるな。)
揺られること暫く。籠が速度を落とし、そっと地面に降ろされる。
『ありがとうございます。』
ひなは籠かきに礼を告げ籠を降りる。
(ここが家康の居城かぁ。いつも家康の方が安土城に来てくれていたから、お邪魔するは初めてだな。)
てくてくと門へ向かう。門の両脇に屈強そうな門番が立っていた。
(ちょっと怖そうだけど、挨拶しないのは失礼だよね。)
『あの…。こんにちは。』
おずおずと声をかけると、同時に両側から睨まれる。
(うぅっ、怖い。)
どう続けたものかと躊躇していると、門番の一人がハッとした顔で目を見開く。すると跪いて言った。
『ひな姫さまっ、大変 失礼致しました!!おい、殿を!』
『はっ!失礼致しました、今すぐにっ!』
もう一人の門番は血相を変えて城内へと走り去った。
(なに?なにが起きたの?)
目をパチクリさせているひなに、門番が教えてくれた。
私が急に居なくなり、家康が四方八方 手を尽くして探していたこと。
もし、いつか私が戻ってきて自分の元を訪れたら、手厚く迎え入れるように言われていること、など。
『家康が?そんなに私の事、捜してくれてたんですね。』
『はい、それはもう大変な力の入れようでございました!
ただ、見つけること叶わず日に日に覇気が無くなってしまわれているご様子で…。』
門番が、よよと泣き付す。
(えええーっ!どうしよう、泣かせちゃった!)
『いや、俺もともと そんなに覇気がある方じゃ無いから。
あんたも いちいち心配しなくていいよ。嘘泣きだから。』
城内から出てきた家康が言うと、「ばれましたか?」と門番が笑顔を見せた。
(嘘泣きだったんだ…。っていうか、家康って部下の人と結構フランクに話すんだ、以外。)
『いっ、家康殿、そんなに急がれなくとも あちらから出向いてくださったのです!
もう居なくなられたりは、ハァ ハァ、されぬはずっ!』
後ろから、もう一人の門番がゼエゼエと息を切らして駆けてきた。