第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
ペコリと頭を下げ握手する為に手を出すと少し驚いたような顔をされた。
(ん?)
『フッ!蔵人でいい。あと、それは お前達の「里」で言う「握手」って挨拶だろ?
俺達にその習慣はないし、忍によろしくする姫様なんて、お前くらいだ。』
『えっ、そうなの?それなら…。』
『それなら どうして俺は知ってるのかって?お前にも お抱えの忍がいるだろう。そいつから聞いた。』
(私のお抱え…?)
『って、佐助くんのこと!?佐助くんは同郷の友達だよ!』
(そういえば、私達が現代に飛ばされる前の宴で、いつのまに親しくなったのか仲良く話してたっけ。その時にでも聞いたのかな。)
『佐助殿は素晴らしい忍でございます。私も見習うところが多々。』
『そ、そうなんですね。』
(リアル忍の蔵人さんに一目置かれるなんて、佐助くん凄すぎ。)
ひなが、ひとしきり感動していると、政宗が蔵人に頼み事をしていた。
『蔵人、ひとっ走り屋敷に戻って、これを持ってきてくれ。あと籠の手配もな。』
『えっ、いいよ。私、歩いて行くから。』
わざわざ籠を呼びに行ってくれるという蔵人に悪いからと、ひなが政宗の申し出を断り、その場を離れようとする。
『駄~目だ。こんなに可愛い女が1人で歩いてたら、ろくでもない輩が寄ってくるだろ。
本当は一緒に行ってやれたらいいんだが、生憎この後、来客の予定があってな。それと、渡したい物もあるしな。』
そんな話をしているうちに、蔵人は屋敷に戻って行った。
(あ、行っちゃった…。)
『なんか、気を使わせちゃって ごめん。でもまだ明るいし、やっぱり私…。きゃっ!』
政宗がひなの腰を掴み、ひょいと抱え、そのまま神楽殿の階段に座らせた。すぐ隣に正宗も腰掛ける。
『いいから 言うこと聞いてろ。』
… … …
その頃、蔵人は政宗邸へと ひた走っていた。
(ひな姫さまが無事に帰られて安心した。最近の政宗さまは殺気立っていて正直 心配だったしな。)
普段は滅多に見せない笑みが自然と浮かんだ。
(あー…。しかし、私が言うのもなんだが、政宗さまは押しが強そうに見えて優し過ぎるところがあるからなぁ。
あの方が奥方さまになって頂けたら、家臣達の評判もいいし、伊達家も安泰なのだが…。)