第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
『だがな、お前が来てからというもの、俺はお前が怖かった。』
『えぇっ!私は政宗の方が断然 怖いけと…。』
『ばーか、そういう事じゃねぇよ。…何処かに行っちまうんじゃないか、そうしたら、もう二度と戻って来ないんじゃないか。
…それは俺の事が嫌いになったからじゃないか、ってな。』
(政宗が、そんな事考えてたなんて思わなかった。)
ひなが、そっと体を離す。
『急に居なくなって、ホントにごめん。もう大丈夫だから。
それに、私は政宗の事、嫌いになんかならないよ。』
微笑んで答える。
『どうしてそう言いきれる?』
『だって、私の事 本気で叱ってくれてるでしょ?
実は政宗に会う前に、信長さまと秀吉さんにも叱られたんだ。みんな政宗みたいに、こーんな目、してたよ!』
ひなが目尻を指で吊り上げる。その顔をみて政宗がククッと笑った。
『ねぇ、政宗。これは私の勝手な考えだけど、どうでもいい人の事は放っておくと思うんだ。
ってことは、みんな多分 私の事を心から心配してくれてる。
そんな優しい人達の事、嫌いになるわけない。』
ひなが力強く言い切った。
『ありがとうよ。ただ、嫌いにならないのは、出来れば俺ひとりであってほしかったけどな。』
ぽん、と頭を撫でられる。
『どういう意味?』
『なんでもねぇよ。ったく。』
頭を掻きながら政宗が苦笑いしている。
『ところで、この後はどうするんだ?』
『この後は、家康の御殿にも寄って挨拶してから、安土城に帰る予定だよ。』
『そうか、それなら…。蔵人(くらんど)!』
林に向かって声をかける。枝がザワザワッと揺れ、黒頭巾の忍が政宗の傍らに現れた。
『はっ、こちらに。』
(わっ!どちらから!?)
驚いた顔をしていると、政宗が笑いを堪えつつ紹介した。
『心配するな、俺が囲っている忍だ。』
(あぁ、部下の人って事だよね。)
片膝をついて顔を伏せたまま、蔵人が挨拶をする。
『ひな姫さま、お初にお目にかかります。世瀬蔵人と申します。以後お見知りおきを。』
『あ、はい。ひなと言います。世瀬さん、こちらこそ よろしくお願いします。』