第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
『ワッハッハッ!冗談だ、悪い悪い。ほんとに単純で、からかい甲斐があるな、ひなは。』
慶次は猫のような目を悪戯に細める。
(言ったな、よーし…。)
ひなは、まだ自分の肩に乗っている逞しい腕に、やんわりと頭を預けた。
『久し振りに会えたのに、慶次は嬉しくないの?』
上目使いで尋ねる。
『…っ!!う、嬉しいに決まってるだろ。』
猫目が大きく開き、頬が色付く。
(え、予想外に反応、素直過ぎ!)
『っそうなんだ!…ありがと。』
慶次の紅潮が伝染したのか、ひなの頬も紅く染まる。
その時、ガラガラッと道場の扉が開いた。
『おや、慶次殿。もう用は済まれたのですか?』
中から、鍛練をしていた家臣が声をかけた。
『ああ、そうだな。』
『ん?ひな姫さま!』
家臣も、ひなに気付き喜びの声をあげている。鍛練が終わったらしい他の家臣たち共々、あっという間に囲まれてしまった。
(うわわわ!)
慶次が家臣達から庇うように、ひなの体を自分の方に寄せる。
『ちっ、いい雰囲気だったのによ。』
(ええっ!?そんなこと言ったら変な誤解されるからっ。)
『ひな姫様が無事に帰ってこられて、ようございました。
いらっしゃらなくなってから、慶次殿は口数も少なくなり、稽古をつけて下さる時も何処か上の空で…。
病になってしまわれないかと私共も気が気では無かったのです。』
先ほどの家臣が目を潤ませながら教えてくれた。
(皆さん…。)
家臣達の主を想う気持ちに胸が暖かくなる。
『ばっ、馬鹿やろう、ふざけたこと言ってんじゃねぇ!』
文句を言う横顔は先程より赤みを増していた。
『慶次、皆さん、ご心配かけて本当にすみません。これからは信長さまの妹として改めて お世話になります。』
そう言ってひながペコッ、とお辞儀をする。
『よーし、そうと決まれば今夜は宴だ!』
『とびきり旨い料理を、政宗さまに作って頂こう!』
わーっ!と家臣達が歓声をあげた。
『そんな、皆 忙しいのに私なんかの為に…。』