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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)


『お気遣い、ありがとうございます。でも、まだ帰って来た挨拶が出来てない人達がいるので。』

『そうか。』

(少し残念そうな顔をしているような…?まさかね。)

『それじゃ、また。』

そう言って再び廊下を小走りに去る。

『あまり急ぎすぎると転ぶぞ。廊下は走るなと お前の義理の兄が いつも言ってるだろう。』

(義理の兄…?ああ。)

ひなは、くるりと振り向き腰に手を当てて、

『秀吉は兄ではありませぬ。私の義理の兄は信長さま只ひとり。お間違いの無いように。』

ひなは、わざと偉そうに言うと、「えへへ。」と照れ笑いを浮かべ、再び走っていく。

遠くなるその姿を、光秀は目を細めながら見送る。

『なんだ、あれは。…俺の真似か?

クックッ、お節介でお人好し。それでいて何故か人を魅了する。お前は兄達に そっくりだ。まるで本当の兄弟のように。

俺には些(いささ)か眩しい光だがな。』




(似てない物真似 披露しちゃったよ。後で光秀さんに仕返しされそうだな。)

怖じ気づきながら、次に挨拶する武将の元へ急ぐ。


(今日も、やってるかな?)


ひなは、慶次を探しに道場の前に来ていた。

(稽古をつけてたら邪魔しちゃ悪いもんね…。)

そーっと扉の隙間から中を覗く。家臣たちが掛け声を掛けながら素振りをしているようだ。

(えーっと、あれ?慶次いないのかな。うーん、隙間が狭くてイマイチ見えない。)

道場の入り口で、ひなは背伸びをしたり、しゃがんでみたり…。


ぶはっ!と笑い声が聞こえて飛び上がると、ガシッと肩を組まれた。

『うわっ!け、慶次?』

(いつのまに…全然 気付かなかったっ。)

『黙って見てたが、お前、挙動不審すぎだぞ。』

『うぅっ。それは自覚してます…。』


慶次は反対の手でお腹を抱えて、ひとしきり笑った。

『は~ぁ、腹痛ぇ。』

(笑いすぎだよ、もう!)

口を尖らせるひなの顔を覗き込むと、穏やかな声で慶次が告げた。

『そんなに唇尖らせてたら、口付けするぞ。』

『えっ!』

ひなは慌てて両手で口を覆う。
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