第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
どうしたのかと見つめていると、三成が手の甲に
「ちゅっ。」と小さな口付けをした。
『えっ!』
突然の事に、ひなは口を開けたまま反応出来ない。
『本当は、もっとひなさまに触れていたいのですが、自制が効かなくなりそうなので。
私も一応、男ですから。』
三成は、ひなの手の甲を指でスルリとひと撫でして、掴んでいた手を離した。
「男」と言われたせいか、ひなは急に三成の目の前に居るのが恥ずかしくなって俯く。
(そうだよね、天使スマイルに気を取られてたけど、光成くんだって立派な男の人だよね。)
『すみません、お嫌でしたよね。手の甲とはいえ、いきなり口付けなんて…。』
三成が眉を寄せ、申し訳なさそうに謝る。
『あっ、違うの、嫌だったとかそういうのじゃなくて。ちょっと、いつもの三成くんと雰囲気が違うから驚いただけ。
あ、私、他の人にも挨拶に行ってくるね。』
そう言って立ち上がると、ひなは そそくさと書庫を後にした。
パタパタと足音が遠ざかってゆく。
『はぁ、書庫の扉が開けっぱなしで良かった。もし閉まっていたら、理性を失うところでした。』
聞く人の無い言葉を、三成は深い溜め息と共に溢した。
(はぁ…はぁ…。)
ずっと小走りだったせいか息が乱れる。
『なんだ、廊下の真ん中で息を荒くして。帰って来た途端、盛りでもついたか?』
(このイジワルな物言いは…。)
『光秀さん!』
振り向くと、ニヤリと笑う光秀の姿があった。
『相変わらず毒舌ですね。落ち着きます。』
素直な気持ちを言葉にすると、光秀は方眉を上げて言った。
『お前の すっとんきょうさも相変わらずで、なによりだ。』
(うぅっ、口では敵わない…。口でも、かな。)
『はい、まぬけさは筋金入りです。』
真面目な顔で答えると、呆れたように「ふっ!」と光秀が笑う。
『よく戻ったな。』
大きな掌が、ひなの頬に優しく触れる。
(光秀さんの手、暖かいな。)
『のんびり休んでいたらどうだ?』