第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
(早く皆に挨拶したいけど、家康と正宗は、きっと自分の城だよね。それなら、まずは…。)
ひとり天守閣を後にして、ひなは書庫へと向かう。そっと書庫の扉を開けると、懐かしい光景があった。
三成が眼鏡をかけて戦の指南書に目を落としている。
(ふふっ、相変わらず、熱中すると回りの事は全く見えてないみたい。)
三成に近付き、文机を挟んで腰を下ろし頬杖をつく。
(真面目な顔してると、三成くんって凛々しいな。)
『それ、面白いの?』
『ええ。新しい陣形の説明が丁寧に書かれていて、とても興味深いです。』
『私でも理解出来るかな。』
『はい、初めてご覧になる方でも、図解してあるので解りやすい…か、と。』
そこまで言うと、三成がゆっくりと顔を上げる。ポカンと開いた口が、段々と三日月になる。
『ひな…さまっ…お帰りなさいませ!』
『ただいま、三成くん。』
『今まで一体どちらへ…いえ、そんなこと今はいいですね。お変わり、ありませんか?』
『うん。三成くんも元気そうで良かった。』
答えると、三成はひなの手を そっと自分の両手で包む。それを自分の額に当てて溜め息をついた。
『心配…しました。もう、お会いできないのかもと。』
『三成くん…。』
あの天使スマイルを曇らせていたのかと思うと心苦しい。
『心配かけてゴメンね。どうしても急いで行かなきゃだったの。皆に説明する時間もなくて。』
『あらかた政宗さまから聞きました。せっかく帰っていらっしゃったのに、私が暗い顔をしていてはいけませんね。』
三成が、とびきりの笑顔を見せる。包んでいた両手を離し、すぐまた片手を掴む。