第9章 秀吉
(秀吉さん…呆れてるかな。
そうだ、呆れられついでに、この間のこと謝っちゃおう。)
『あの…秀吉さん。名前、忘れちゃってて ごめんなさい!
他のことも色々…頭が混乱してて思い出せなくて。でも、頑張って思い出します。』
ひながペコリと頭を下げる。
秀吉は、その頭を撫でようとして、はたと我に帰った。
((な!?何をしようとしているんだ俺は。信長さまの頭を撫でるなんて不届き千万!))
ブツブツ呟きながら頭を振って、秀吉が余計な考えを頭から追い出す。
そんな事を知ってか知らずか、ひなは真剣に着物を選んでいた。
『秀吉さん、着物、決めました。私これがいいです。』
淡い水色に渦巻きのような模様が入った着物だ。
『あぁ、観世水(かんぜみず)柄ですね。これは涼しげでいい。今日も暑くなりそうですから…ね。』
暑いのは気温のせいだと、秀吉は自分を納得させる。
『ところで、着付けは覚えていらっしゃいますか?』
と秀吉が尋ねる。残念ながら、もちろんひなは着付けなとやったことがない。
うーん、と首を捻っていると、『ははっ!』と秀吉の笑い声が聞こえた。
『どうぞ、思い出せない事は何でも聞いて下さい。何度でもお教え致します。今日は私がお手伝いしますから。』
そう言うと、ひなを畳の上に立たせ手際よく着物を着せて行く。
『あとはこの袴を履けばいいんだよね。』
この世界の信長は、女だけど袴を履いてるのね。
ま、《お殿様》だしね。
ひなは袴を持って片足を入れようとするが、慣れない着物に足がもつれた。
(わっ!倒れる!)
『おっと!』
ひなは、しっかりと秀吉の腕に抱き止められた。
『お気をつけください。』
『あ、ありがとう…。』
そっと体を離すと、今度はバランスを取りながら袴を履いて、肩に黒い羽織を掛ける。
(心臓がバクバク言ってる…。)
悟られないように姿勢を正し、秀吉と共に広間へ向かうひなだった。