第9章 秀吉
チュンチュン…
(んー…。今、何時…。)
ひなは、いつものように手探りで目覚ましを探す。
がしっと何かを掴み、うっすらと目を開けた。
なに?このがっしりとした…ふとも…も?
『わーっ!』
『うわぁっ!』
突然のひなの大声に、太腿を掴まれていた秀吉が飛び上がった。
(な、なんで秀吉さんが ここにいるのっ!?)
こほん、とひとつ咳払いをして秀吉が言う。
『…誤解の無いように言っておきますが、信長さまが なかなか起きて来ない、と女中連中が困っておりまして。
代わりに起こしに来てみれば、ご自分から人の腿を掴んでおいて大騒ぎ…。
朝餉の準備が出来ております。兎に角お召し物を…お、お着替えになられては?』
赤い顔で、ふいっと秀吉が顔を背ける。
ん?と下を見ると襦袢の胸元がはだけていた。
『わわっ!』
ひなは慌てて後ろを向くと襟を整える。
『いくつか着物をご用意しました。本日はどれになさいますか?』
秀吉に言われて向き直ると、色鮮やかな着物が数着、綺麗に折り畳まれて置いてある。
どれも細かい刺繍や染めが素晴らしい。
『わぁぁ…みんな綺麗!どれでもいいんですか?』
嬉しそうに秀吉を見つめて感激の声をあげると、秀吉は、ぽかんと口を開けている。
『あのー、私、何か変なこと言いました?』
『あー、いや。言葉遣いがおかしいのは別として。
いつものごとく「一番 高価な物を」と仰るのだとばかり。
そのように無垢な目で見つめられると調子が狂います。』
赤い顔をして秀吉が頭を掻く。