第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
ピタッ、と秀吉の動きが止まる。顔だけひなに向けると、
『嘘だ。そんなに素直に信じると思わなかった。』
と言って笑う。
『酷い!心配したのにっ。』
ひながプーッと頬を膨らます。
『悪かった。そんなに怒るな。』
膨れた頬を秀吉がツンッ!とつつく。
『人から心配されるのは馴れてないんだが…。なかなか嬉しいものだな。』
頬をつついた指が、今度は弄(もてあそ)ぶように、そっとひなの髪をすく。
(…っ!)
艶(なまめ)かしい仕草に体の熱が上がる。
(秀吉さんの色香がオーバーヒートしてるっ!この熱は冷まさなきゃマズイやつだ。)
『あっ、ほら!早く行かないと信長さまに叱られちゃいますよ?』
『ん?あぁ、そうだな。』
名残惜しそうに秀吉の手が離れてゆく。
(はぁぁ。どうなるかと思った。)
動揺に気付かれないよう自分を落ち着かせる。二人は再び天守閣へ向けて歩を進めだした。
『ところで、ひなは安土城に住まうのか?』
『うん、多分。信長さまが家族に迎え入れて下さるってことだし。』
『そうか…ちなみに俺は別の城に住んでるんだが…空き部屋は たくさんあるぞ。つまり何が言いたいかと言うとだな。』
そこまで言って良い淀み、覚悟を決めたように付け足す。
『お前さえ良ければ、俺の城で暮らさないか?』
『えっ?』
(秀吉さんのお城で? )
『俺の目のつく所にいてくれれば、何かあっても対処できるし、』
自分で言いかけた言葉に、秀吉は「いやいや…。」と首を振る。
『これは言い訳だな。本心を言うと、お前に側に居てほしい。他の奴に触れさせたくない。』
独り言のように続けた。
『そんな言い方されたら、私が秀吉さんの特別な人みたいじゃないですか。』
へへっ、と照れ笑いしながら、ひなが言う。ハッ、と息を呑むと秀吉も笑顔で返す。
『ああ、ひなは俺の特別だ。特別可愛い…妹分だ。』
そして、何かに堪えるように、ひなの頭をクシャッと撫でた。