第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
『蘭丸くん、また来るね。この軟禁も解けるよう、信長さまにお願いしてみる。』
『ありがと!ひなさま、大好きだよ。』
蘭丸がひなに向かって、ウィンクを投げる。
(な、なにそれ…。現代だったら人気アイドルだよ。)
『あ、ありがとう。』
紅くなる頬を隠すように、ひなが廊下に駆けてゆく。
『ふふっ、これくらいで紅くなるなんて、ほんっとひなさまって愛くるしいなぁ。
顕如さまにあげるの、勿体なくなっちゃった。
うーん、先に奪っちゃおうか!』
可愛い顔をして肉食系な蘭丸を一人残し、ひなは秀吉の背中に声をかけた。
『秀吉さん、ごめんなさい。』
『ん。』
柔らかな笑顔で振り向いた秀吉が、ひなの頭を撫でながら溜め息をついた。
『はぁ~。俺は、お前の前だと全然頼りにならないよな。
信長さまの影武者をやっていた時も危ない目に合わせてしまったし、今回も、二人が京の都や民を守る為、自ら嵐に向かっていったのを止められなかった。』
秀吉が苦笑いを浮かべる。
(まだ気にしてるんだ。もうっ!)
『秀吉さんは凄く頼りになるし一緒に居ると心強い。自分の事、過小評価し過ぎだよ。』
ひなは右手をグーの形に握ると、秀吉の二の腕を軽く叩く。
『私なんて、あの時も…あの時も…なんやかんや、やらかしてるけど…。』
ひなが指折り数えながら視線を宙に彷徨わせる。
『それはそれで良かったのかなって。もちろん申し訳ない気持ちは一杯だよ!
でも、それより「良い経験が出来たな。」って思うんだ。』
にっこり笑いながら秀吉の顔を見上げる。予想外の言葉を掛けられて秀吉は呆れ顔だ。
『まったく…、お前には敵わないな。でも!ありがとうな。
にしても、お前、結構 力あるんだな。痛ててて…。』
先ほどひなが叩いた二の腕を押さえ、秀吉が顔をしかめる。
(嘘っ、軽く叩いたつもりだったのに…。あっ、もしかして、まだ信長さまの力の余韻が!?)
『ごめんなさい!大丈夫?』
オロオロしながら秀吉の腕をさする。