第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
『えっ、私が気に入られてる?』
(花火大会の時は、かなり失礼な事をやったり言ったりしたような気がするんだけど…。)
『くすっ。面白い女子(おなご)がいるものだ、って。普段 笑顔を見せない顕如さまが笑いながら言ってたから間違いないよ。
俺も…来てくれると嬉しいな。』
甘えるような声にドキリとする。
(ん?花火大会での顕如さんとのやり取りも、皆にひろまっちゃってるの!?
っていうか、まるで実際に見てきたような言い方…。)
戸惑いながらも返事をした。
『私も そう言って貰えるのは嬉しいよ。』
『それじゃ!』
『でも、一人で勝手には決められないかな。戻ったばかりだし…ほら、一応 影武者だし?』
理由になっているのか解らないが、「そっかー、そうだよね。」と蘭丸が納得している。
『それじゃ、お願い。落ち着いたらでいいから、顕如さまに会いに行ってあげて。約束。』
蘭丸がひなの手を取り小指を絡ませる。
『♪ゆーび切ーりげんまん、嘘ついたら…俺がひなさまを さーらう!指切った。』
『へっ?今、なんて?』
『ほら、誰か来たみたいだよ。じゃあね。』
そう言うと、蘭丸は ひなと距離を取る。
『何事だっ!』
スパーン!と障子を開けて部屋に飛び込んで来たのは秀吉だった。
『うわっ!秀吉さん?』
『…っ!ひな!?』
一瞬の間の後、怒った顔でツカツカと近付いてくる。
(わーっ、怒られるっ!)
首をすくめて身構えるひなを、ぎゅっと秀吉が抱きすくめた。
『良かった…良かった、戻ってきてくれて。』
(あ…れ?)
『いきなりいなくなって、ごめんなさい。ああするしか無くて。ところで秀吉さん、震えてるけど寒いの?』
ひなが尋ねると秀吉が困ったように笑う。
『はは、そうだな。心が寒かった。でももう暖まったよ。』
そう言いながら、秀吉がポンポンとひなの頭を撫でた。
『さ、まずは信長さまにご挨拶だ。行こう。』
部屋の入り口に向かう秀吉に、ひなが声をかける。
『秀吉さん、すぐに追い付くから先に行ってて。』
解った、と秀吉は先に部屋を出る。それを見送ると蘭丸に向き直る。