第44章 一日千秋(いちじつせんしゅう)
ドンッ!!
落雷のような音と共に、ひなの体が転がった。
『痛たたた…。』
思い切り尻餅を着いたらしく、痛むお尻を擦っていると、聞き覚えのある声がした。
『信長さま!?じゃないや、ひなさま?』
この声は…。
『蘭丸くん!』
目をしばたたかせているのは、軟禁されている蘭丸だった。
辺りをキョロキョロ見渡している。
『今、何処から…っていうか、本物?』
確かめるように、ひなに抱きついた。
(わっ!)
『本物だ…。今まで何処に行ってたの?大嵐の日から姿が見えなくなって心配してたんだよ。』
蘭丸が泣きそうな声で言うので、思わず謝る。
『ごめん、ちょっと野暮用で。…って、私がいなくなったこと、なんで蘭丸くんが知ってるの?』
『あー、えーっと、噂を小耳に挟んだんだ。』
体を離し、にっこり笑顔で返される。
(なんか誤魔化された気もするけど、まあ、いいか。)
『ひなさま…、その…、ごめんなさい!』
『えっ?どうして謝るの?』
(私、蘭丸くんに何かされたっけ?)
考えるが思い浮かばない。
『信長さまの影武者だったとはいえ、失礼な態度とっちゃった。ひなさまにだから言うけど、俺、裏切り者だから。』
蘭丸が自嘲気味に笑った。そうだ、確か敵と通じていたんだったか…ひなが記憶を辿って思い出す。
『生きてたら色んな事があるでしょ?それに、裏切り者は自分で『俺は裏切り者だー』なんて言わないんじゃないかな。』
『でもっ…!本当なんだ。俺が仕えているのは…。』
ひなが蘭丸の手を握って言う。
『誰に仕えていようが、いまいが、蘭丸くんは蘭丸くんでしょ。』
ぐっ、と蘭丸が下唇を噛んだ。
『俺が仕えているのは…顕如さまだよ。顕如さまの元で忍びとして仕えてる。ひなさまにだけは知ってて欲しい。』
いつもとは違う低い声が、ひなの心を刺した。
『ありがとう。本当の事、教えてくれて。顕如さんの所に帰るのも、ここに居るのも自由だからね。
まぁ、私としては いてほしいけど。』
素直な気持ちを伝える。
『顕如さまも、ひなさまのこと気に入ってるから、ひなさまが顕如さまのところに来てくれたら嬉しいのになぁ。』