第43章 天佑神助(てんゆうしんじょ)
(その顔も可愛いな。あー、これはつまり。)
『好き…なんだ。』
佐助がボソリと呟く。
『あっ、食べていいよ。ごめんね、手 止めさせちゃって。』
ひなが申し訳なさそうにしている。
(そうだった。君は、しっかりしているようで俺よりも疎いというか…。)
『「真の恋の道は茨の道である。」そう言ったのはシェイクスピアだったかな?』
珈琲に口をつけながら、教授が何気無く語る。
『…そろそろ本題に入りましょう。のんびりお茶してる場合じゃない。』
カチャン!とカップを置く音がした方をみると、ひなが無視息に姿勢を正していた。
『どうしたら俺達がまた過去に戻れるか。』
『少し掛かるかもしれないね。君たちは近くのホテルで寝泊まりするといい。私が取っておこう。部屋はダブル…。』
『教授。』
佐助が射るような目で見ると、教授が肩を竦めた。
… … …
現代に戻ってから、もう、ひと月が過ぎようとしている。耳を澄ませば、こんな静かな夜には虫の声が聞こえる季節になった。
『よし!これで解明できたな、三雲くん。』
『ええ、理論上は。』
(タイムトラベルと天候の関係性について、という論文を出したい位だ。)
『この計算式に当てはめると…明日の早朝には、現代に戻ってきた時に遭遇したのと同程度のスーパーセルが発生します。』
『えっ!本当?』
ひなも身を乗り出して聞いている。
『ああ。場所は…伏見稲荷だ。』
(なるほど、まさに後は神のみぞ知る、か。)
二人は、宿泊先のホテルに帰り大急ぎで荷物をまとめ、こちらに飛ばされた時に着ていた着物に着替えた。
もう真夜中だ。こんな格好をしていても誰もとがめないだろう。
(うん、なんだかこっちの方が しっくりくるな。)
別れの挨拶をするため、一旦、研究室に戻った。
『榊教授、色々と ありがとうございました。』
『いやいや、この理論を解いたのは君だ、三雲くん。出来れば、この論文を学会に発表したかったよ。』
今しがた考えていたのと同じ事を言うものだから、佐助が笑みを溢した。
『それは、いつか。』
(いつか、もし また戻ってこれたら…。)