第43章 天佑神助(てんゆうしんじょ)
そんな考えを断ち切るように、凛とした声が響いた。
『必ず戻って来ます!ね、佐助くん。』
『え?あぁ、うん。』
相槌を求められ、勢いで頷いていた。
『三雲君を あたふたさせる女の子が居たとは。だが、私も彼女の意見に賛成だ。
必ず、また顔を見せに来てくれると信じているよ。』
教授が、そっと右手を出した。佐助も小さく頭を下げて握手を交わす。そして佐助にだけ聞こえるように教授が囁いた。
『「人はただ自分の愛する人からだけ学ぶものだ。」これはゲーテの言葉だが、君が一回り大きくなった気がするのは彼女のお陰か?
どんな立ち位置であれ、ひなさんを大切にな。』
『軽く、振られる前提で話してませんか?』
わっはっは!と教授が笑い出したので、ひなが驚きに目をパチクリさせながら二人の顔を交互に見る。
教授に もう一度別れを告げ、伏見稲荷へ向かう。
(夜は少し冷えるな。)
『ひなさん、寒くない?』
『うん、佐助くんの方が薄着だから寒いんじゃない?』
(どんな時も君は他人の心配が先なんだな。)
『いいや、俺は代謝がいいのか いつも暑…。』
言いかけたとき強い風が吹いた。あれよと言う間に空は暗くなり、真っ黒く分厚い雲が渦を描き出す。
伏見稲荷に足を踏み入れたときには雨も振り出し、それの訪れが近いことを教えていた。
『ひなさん、少し急ぐ。出現するのは千本鳥居辺り。後は…。』
(こちらに飛ばされた環境と同じ。)
『タイミングだ。』
『タイミングだよね。』
二人の声が重なり顔を見合わせる。どちらともなくクスッと笑い合う。
それが合図であるかのように、二人は暴風に体を拐われる。
『ひなさん!』
佐助がひなの体をしっかりと抱き締めた。どちらが上なのか下なのか、自分達が何処にいるのかも解らなくなる。
『あっ、佐助くん、あれ!』
ひなが指差す所を見る。同じように、嵐の中に抱き合う背中が見えた。
(あれは…現代に戻る時、スーパーセルに巻き込まれた俺達か?つまり、俺達は今、時の狭間を彷徨っているんだな。)