第43章 天佑神助(てんゆうしんじょ)
『な、ひなさん!?』
『佐助くん!?良かった、無事で!』
『それは俺のセリフだ。なんでここに?』
尋ねると、嵐に飲み込まれたあと、ひなは自分の実家に居て、両親に別れの挨拶をしてきたと言う。
『それで、家の玄関を開けたら…ここに出たの。』
佐助が研究室のドアを開ける。そこには、ただ廊下と他の教室の扉が見えるだけだ。
(どうなってるんだ…?)
『取り敢えず、二人が無事で良かった。コーヒーでも飲むかい?』
教授が立ち上がり給湯室に消えた。その姿を見送ってひなが口を開く。
『佐助くんって、大学生だったの?』
きょとん、という形容詞がピッタリな顔だ。
『いや、教える方の立場かな。仕事の合間に臨時の講師をやってて。榊教授の助手も務めてる。』
『そうなんだ、凄いね!』
今度は目を丸くして驚いている。
(君は本当に クルクル表情を変えるんだな。一緒にいると、次はどんな顔をしてくれるのかと楽しくなる。)
『君の方が よっぽど凄い。』
『え、私?私は何もしてないよ。』
ひなは片手を顔の前でブンブン振ってみせる。
(そうやって大変なことも全部、大したことじゃ無いと言う。やっぱり君の方が何倍も凄い。)
フッ、と佐助が笑みを漏らした。
『話が弾んで居るようだね。』
お盆を手に榊教授が戻って決た。トレーの上には3人分の珈琲とケーキ、そして何故か皮を剥かれてラップに包まれたバナナが一本、乗っている。
『えーっと、榊教授、これは?』
ひなが、そっと触ると…
『冷たっ!』
と声をあげる。
『俺が大好きな冷凍バナナ…。榊教授、俺が居ない間も用意してくれてたんですか?』
『ああ。君がいつ戻ってもいいようにな。といっても皮を剥いて冷凍庫に放り込むだけなんだが。』
『…ありがとうございます。』
暖かい気持ちになり頬が緩む。その横顔を、ひながニコニコしながら見詰めていた。
『佐助くん、大好きな食べ物の前だと、そんな顔するんだね。』
『バナナはカリウムを豊富に含んでいて、運動中に筋肉が痙攣するのを防ぐらしい。俺、顔面の筋肉が死んでるって言われるから。』
真顔で返すと「いや私そこまでは…。」とひなが狼狽(うろた)える。