第8章 魔王
(私と佐助くんが この時代に飛ばされたせいで色々と歴史が変わってるって言われたけど、
信長さまの身にも とんでもないことが起こっていたらんだ。
あ、そうだ。信長が二人いて解りづらいから、信長さまのことは本家・信長さまって言おう。)
「ま、これはこれで なかなか面白いがな。俺の家臣共が何を考えているのか丸解りだ。」
『その顔、怖いです。』
ひなの言葉が聞こえていないのか、本家・信長は更に話を続ける。
「とはいえ、俺もこのままでは流石に腑に落ちん。
謀反を働いた輩には俺の手で制裁をくわえねば気が収まらぬ。
なにより、天下統一を前にして消え去る訳にはいかんのだ。
…お前の仲間の、みょうな忍が言っていたな。“元の時代”とやらに戻れるかもしれない、と。」
嫌な予感に思わず逃げようとしたひなだったが…。
バンッ!
本家・信長は覆い被さるように襖に手を付き、それを阻止した。
「元の時代とはなんだ?」
『それは…。』
(言っちゃいけない気がする。)
口を引き結び、ひなはプイッと横を向いた。
「ほぅ、この俺相手にその態度。貴様なかなか肝が座っておるな。喋る気はないか。いいだろう、それはおいおい確かめてやる。
だが、お互いに今までの暮らしに戻りたいという利害は一致しているわけだ。
ならば、その時の為、お前はこのまま俺を演じろ。
…いいな?」
(うぅっ、圧が強すぎて嫌とは言えない。)
『は…い。』
本家・信長は満足げに にやりと笑う。
「貴様のような跳ねっ返り、嫌いではない。
助けが必要なときは胸奥(きょうおう)で叫べ。
…俺が欲しい、とな。」
耳元で囁かれ、ぞくりとして思わず目を瞑る。
…再び目を開けると、本家・信長の姿は跡形もなく消えていた。
ひなは急いで寝床の中に潜り込み、頭から布団を被る。
『どうしよう。はい、って言っちゃったけど…。』
暫く うんうん唸っていたひなだったが、いつしか睡魔に襲われて深い眠りについた。