第42章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
『ありがとうございます。それじゃ、唐突なお願いですが…。』
ゴクリと唾を飲み込む。
『信長さま、私を貴方の家族にしてください!』
広間の喧騒が一瞬ピタリとやむ。次の瞬間どよめきに変わった。
『んなっ!?ひな、お前、信長の側室になるってのか?』
幸村が箸を取り落とし、
『へぇ~!女子から求婚とは大胆だな。』
慶次は舞いの途中で両手を上げたまま驚き、
『ひな、男の趣味が悪いぞ。』
信玄は心底 不服そうな顔をする。
『え、求婚?いやいやいやいや、そうじゃなくてっ!』
(っていうか、さっき私も佐助くんに言われて、そう勘違いしたっけ。)
両手を体の前でブンブン振ると、急いで付け加える。
『側室とかでは無くてですね、家族になりたいだけというか…。』
(あぁ、もう、何て言ったらいいの!)
光秀は肩を震わせて笑いを堪えているようだ。
『ひな、そこまで信長さまの事を慕っているのだな。俺も同じ気持ちだぞ。』
秀吉は、ひなが信長への憧れで言っているのだと勘違いしている。
『くっくっくっ…。』
黙って聞いていた信長が小さく笑いだした。
『いいだろう、ひな。俺も先頃、津田出雲守室(つだいずものかみしつ)を病で失い、寂しい想いをしていたところだ。
貴様を俺の妹として正式に織田家に迎え入れよう。後の事は頼んだぞ、秀吉。』
『ははっ!』
[*津田出雲守室(つだいずものかみしつ)~信長の姉か妹とされる女性。記録が一切無いため、その実態は不明]
『ありがとうございます!』
(良かった!これで大丈夫だよね。)
カタカタと障子が揺れている。すすっ、と障子を開けて光秀が空を仰ぐ。
『おや、先程まで星が見えていたというのに、すっかり雲で覆われているな。急に風も吹き出したようだ。』
ひなも光秀の後ろから外を覗く。
(ほんとだ…。なんだか嫌な雲。)