第42章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
『遅くなって すみません、信長さま。』
信長が何も言わずに杯を逆さにして振っている。 ひなは隣に座ると、その中に持ってきた酒を急いで注ぐ。
ぐいっと飲み干すと、信長がその杯を目の前に付き出した。
『貴様も飲め。』
『はい。ありがとうございます。』
信長に注がれるまま、同じように ひなも飲み干す。
『いい飲みっぷりだ。それでこそ俺の影武者、だな。』
信長が意味ありげに微笑んだ。
(あ、もしかして…信長さまが「私は影武者だった』っていう話にしてくれてたの?)
『ありがとうございます。あ!そうだ、信長さま。折り入って お話があります。』
『ん?なんだ。此度の活躍の報酬か?安土に返ったら貴様の欲しいものを見繕って…。』
『いいえ!報酬なんか要りません。』
驚いて首を振る。
『どちらかといえば信長さまの方が大変だったのに。』
『そうか?俺は なかなかに楽しかった。』
信長がひなの乱れた髪を優しく耳に かけた。緊張と面映ゆさで固まりそうになるが、なんとか話を切り出す。
『信長さまには以前、スーパーセルのお話をしましたよね。』
うむ、と信長が頷く。
『来月にはそれが発生して、この時代と私達がいた時代がつながり私と佐助くんは元いた五百年後に戻る予定でした。
でも、あることが干渉して発生する時期がずれてしまったらしくて…この2~3日中に起こるらしいんです。』
短い沈黙があり信長が口を開いた。
『それで?貴様は、どうしたいのだ。』
(何も言ってないのに、信長さまは私が何を思ってるのか解ってる。)
『私は…私は、大切な人達が居る この時代に残りたいっ!…です。』
信長の目を真っ直ぐに見詰めて、そう答えた。
『それでこそ、 ひなだ。貴様が思うように生きるがいい。その為なら俺は、いくらでも手を貸そう。』
(あぁ、この人は…。信長さまが天下を治めている意味が改めて解った気がする。)