第42章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
(とっつきにくいと思ってた兼続さんが、私の話に食いつくなんて予想外だな。あれ、そういえば…。)
はたと目線を自分の手首に向ける。手拭いを持ち兼続に掴まれたままだ。
(優しく掴まれてるせいか今頃になって恥ずかしくなってきちゃった。)
顔に熱が集まり少し俯く。兼続も気付いたのかひなの顔と手首を交互に見ると、そっと手を離す。
『…すまなかった。また、お前のいる時代の話を聞かせてくれ。』
それだけを言うと、そっぽを向いてしまった。
『あ、はい!』
向こうを向いた兼続の耳が、ほんのり赤いのは何故だろうか。ひなは、そんなことを ぼんやりと考えていた。
『ひな。』
低く威厳のある声がして、思考の狭間から引き戻される。
『はいっ!信長さま。』
『くっくっ、威勢のいい返事だな。貴様、酌ぐらいしに来んか。』
(いっけない!)
先程まで、信長の周りには武将や家臣達が酌をするために列をなしていた。
ひなも、ある程度その列が治まったら行こうと思っていたのだが…現在に至る。
『謙信さま、すみません。ちょっと信長さまの所へ行ってきます。』
『ふん、つまらんが仕方あるまい。今の ひなの主は奴だからな。
だが、俺の妻になる話、忘れるなよ。』
『なると言った覚えは ありません!それじゃ。』
一升瓶を一本抱えると謙信の側を離れた。
『…あいつめ、剣菱を持って行きおったわ。』
謙信が深い溜め息を洩らした。