第8章 魔王
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政宗が部屋を出て数分、固まっていたひなだったが、食欲に負けて またお粥に手を伸ばした。
『ふぅ、ホントに美味しかった。』
食べ終わった皿を盆に乗せ、そっと障子の外に置いた時だった。
「…ひな。…ひな!」
(えっ!?今、誰か私の名前を呼んだ?
…まさかね。私の名前を知ってるのは佐助くんくらいだし。)
気にせず部屋の中に戻る。
「聞こえんのか、ひな!貴様の名前だろう。
信長と呼ばれ過ぎて己の名も忘れたか、腑抜け。」
(やっぱり気のせいじゃないっ!!)
『だ、誰!?』
「大きな声を出すな。俺の声は貴様にしか聞こえておらん。」
スッ、と障子が閉まる。
(ポ、ポルターガイスト!?)
キョロキョロと辺りを見回していると、また声が聞こえた。
「両の眼を開けて良く見ろ。貴様の目の前だ。」
『目はしっかり開いてます!目の前って言ったって私にはなにも…。』
その途端ひなの目に、赤と黒の半身の着物が飛び込んできた。
ゆっくりと視線だけを上げると、眼光の鋭い男が腕組みをして立っている。
(なに、この 物凄い威圧感…。)
『あの、あなたは…?』
男は、にやりと口の端を上げると言った。
「第六天魔王、織田信長。尾張の大うつけ、とも言うかな。
やはり、信長と呼ばれているお前には見えるのだな。」
『えっ、織田信長!?
…この時代では女の人のはずじゃ…。』
(っていうか、本人がいるならどうして私が信長って言われてるの!?)
色んな疑問が入り交じり訳が解らない。
「それについては俺にも良く解らん。少なくとも、俺は男だと自負している。
…触れて確認してみるか?』
ぶんぶんっ、とひなが首を横に振る。
『本能寺で坊主と酒を飲んでいた所までは覚えているのだが…。
気が付けば真っ暗な嵐の中にいた。
なんとか抜け出したはいいものの誰も俺の姿が見えず、声も聞こえていないらしい。
おまけに城に戻ってみたら貴様が信長と呼ばれていた、というわけだ。」