第42章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
その後、広間を出た二人は、今度こそ台所に向かった。謙信用の酒を手に入れ、肩を並べて、来た道を戻る。
『ところで、佐助くん、一体どれくらいお酒飲んだの?顔、真っ赤だよ。』
ひなが佐助の顔を見上げる。
『赤いのの半分はアルコールのせいじゃなくて、交感神経系の暴走でアドレナリンが…。』
『佐助!待ちくたびれたぞ。ん?ひなも一緒だったのか。』
言い始めに吊り上がっていた謙信の眉が、やんわりと下がった。
『謙信さまも解りやすいな。』
佐助がボソリと発した声には誰も気付いていないらしい。
『すみません!たくさん種類があって、どれにしようか私が迷っちゃったんです。佐助くんは悪くありませんから。』
と謙信に訴える。
『ふむ、ならば仕方あるまい。で、佐助、そんなに赤い顔をして、どうしたのだ?』
不思議そうに佐助に尋ねる。
『アドレナリンが過剰放出中です。』
『あど…なんだと?相変わらず奇妙な言葉を使うな。梅酒を杯(さかずき)一杯飲んだだけで酔うわけでもなかろうに。』
(ん?梅酒?それも杯一杯だけ!?)
『佐助くん…もしかして下戸なの?』
[下戸~体質的にお酒が飲めない、または少ししか飲めない人の事。]
『ゲコゲコ。』
(ダメだ、本気で酔っぱらってる。)
『まったく。これでは使い物にならんな。』
『謙信さま、どうしましょう。』
苦笑いしながら助けを求めると、広間から義元が顔を出した。
『どうしたの?こんなところで立ち話なんて。』
『あっ、義元さん。』
事情を説明して、客間まで連れていって貰う。
『悪いな、義元。』
『すみません。お手数かけます。』
にっこりと笑って義元が答える。
『丁度 外の風に吹かれたいと思っていたところだったからね。それに、謝るようなことじゃないよ。
気にしないで、ゆっくり楽しんでて。佐助を寝かせたら俺もすぐ戻るよ。』
『はい、待ってます。』