第42章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
『いや、俺達が移動すれば、地獄の使者よろしく追い掛けてくるだろう。2人を飲み込むまで…。
そんなことになったら、京都の町に大打撃を与えかねない。』
竜巻に薙ぎ倒された家屋や、倒れる人々の光景が脳裏に浮かび、ぞくりと背筋が凍る。
『皆に危険が及ばないようにするには、戻るしか…ないんだね。』
掠れた声が、しんとした広間に響く。
『いや、ないわけじゃない。無し寄りのあり、だけど。』
眼鏡のブリッジをくいっと上げて佐助が答えた。
『どうすればいいの!?』
(どんな方法でもいい。大切な人がいる、この時代に残りたい!)
縋る思いで佐助を見る。眼鏡の奥の瞳がキラリと光った。
『この時代の人間だと歴史に認識させれば、なんとかなるかもしれない。』
この時代の人間だと認識させる?うーん、と首を捻り、ひなが両手を挙げてギブアップのジェスチャーをする。
『佐助先生…どういうことだか よく解りません。』
『はい、ここテストに出るから良く聞いてね。』
(のってくれた!?表情は変わってないけど。)
『俺の場合、猿飛佐助は架空の人物とされてるから、多分、問題ない。
でも本物の信長さまが戻った今、ひなさんは この時代に居るはずのない存在ってことになる。
信長さまは同じ時代に2人も要らないからね。だけど、この時代にいるのが自然な立場になれるとしたら?』
(この時代にいるのが自然な立場…?)
『つまり、例えば信長さまの家族になる、とか。』
『ええっ!?それって…側室になれってこと?』
本家・信長の奥さんになった姿を想像し、ひなが、遠い目をする。
(こき使われてる姿しか想像出来ないのは何故だろう。)
『別に奥さんじゃなくても いいんじゃないかな?』
佐助が間髪を入れず否定した。
『いや、ほら、織田家に縁のある お姫さまとかでもいいわけだし。』
(佐助くん、酔いが回ってきたのかな。顔、真っ赤。)
『解った。兎に角まずは信長さまに、この事を話してみるよ。』