第42章 危急存亡(ききゅうそんぼう)
『ひなさん、ちょっと、いい?』
戻る途中で佐助に呼び止められる。
『あ、佐助くん。うん、どうかしたの?少し顔 赤いけど、酔った?』
『そうじゃなくて…あ、いや…うん、そう。ちょっと酔ったみたいだ。
謙信さまが酒を持ってこいって騒いでるんだけど、もし足元が覚束なくて酒瓶を落としでもしたら大変だから、一緒に来てもらっていいかな?』
ひなの頭の中に、刀を振り回す謙信の姿が浮かぶ。
(ひーっ!怖い。)
『うん!一緒に行こう。』
二人で外廊下を暫く進む。台所へ向かう角で佐助が反対の方に曲がった。
『佐助くん、そっちは お手洗い!台所は こっちだよ?』
(佐助くんが道を間違えるなんて珍しい。やっぱり酔ってるせいかな。)
慌てて着物の裾を引っ張る。
『あぁ、ごめん。』
佐助が気付いて戻りかける自然な動きで、ひなの肩を抱くと近くの広間に入る。
『わっ!?』
佐助が後ろ手に障子を閉めた。慌てるひなに顔を近付けて佐助が囁く。
『君に言わなきゃいけないことがあるんだ。』
『えっ?』
急に真面目な顔で囁かれてドキリとする。
(近くで見ると、佐助くんの眼ってキラキラしてる…。いやいや、何 考えてるの、私!)
頭の中の妙な感想を吹き消して、佐助の目を見ながら尋ねる。
『なにかあったの?』
『…さすがに、この距離で見つめ合うのは緊張するな。あっ、ごめん。』
佐助が慌てて肩に回していた手をほどき何事も無かったように話を続ける。
『スーパーセルの事で。』
(あ、そうだ。それに重ならないように花火大会を早めたんだった!)
すっかり頭から抜け落ちていた記憶の淵を辿る。
『実は発生する計算にズレが生じてるんだ。本来なら来月頃のはずだったんだけど…。』
『だけど?』
ひなが、その先を促すと、しばらく思案していた佐助が決心したように話しだす。
『この2~3日中には発生する。』
『えっ…。』
動揺し思わず弱々しい声が漏れる。
(あれ?私、早く現代に帰りたかったはずなのに、どうして嫌だって思ってるんだろう?)
それに気付いたのか佐助も複雑な顔をしている。