第41章 掌中之珠(しょうちゅうのたま)
『ひな、俺が用意した着物も良く似合っているね。』
開いた隙間にさりげなく入ってきたのは義元だ。
選んでくれたのは丸い花丸文(はなまるもん)が散りばめられた茜色の鮮やかな着物。
『信長さまの影武者をやっていた時の凛とした文(もん)も素敵だったけれど、やっぱり可愛い女性には可愛い模様がピッタリだね。』
ゆるゆると手の甲でひなの頬を撫でる。
(ひゃっ!)
『その肌にも…茜色の紋様をつけようか…?』
『け、結構です!』
(無自覚の色男振りが凄まじい!)
『そう?それは残念。』
(良かった…普通に諦めてくれた。)
『ところで、捕らえた足利義昭と帰蝶さんは今、どうしてるんですか?』
二人の事が気になって誰にともなく尋ねる。
『義昭には仏門に入って貰う。』
高座から、本家・信長の声が聞こえた。
『また妙な欲を出して歯向かうことが無いように、俗世を捨てさせて…生かす。
貴様の麗しい肌に傷をつけたこと、俺は今際の際(いまわのきわ)まで忘れはせん。』
頬杖をつく本家・信長の瞳が熱を帯びていてドキリとする。
『帰蝶は安土の牢の中だ。助けの一つも請えば、また側に置いてやらんでもないが何も喋らぬ。
あやつは女子のように綺麗な顔をしているが、なかなかに頑固な男だからな。』
本家・信長が珍しく困ったように言った。確かに敵に回すと怖いけど、見方にいたら物凄く頼りになる武将であり戦力だろう。
『安土に戻ったら、私も話してみます。』
現代のことも何故か知ってるみたいだし、一度きちんと話がしてみたかった。
『いいだろう。期待しないで待っておく。』
本家・信長が悪戯な微笑みを寄越し、また他の家臣たちと酒を酌み交わし始めた。
ひなは、ペコリと頭を下げて、部屋の片隅に目をやる。
元就が一人、キセルで煙草を燻らせていた。
『政宗が作った料理、どれも美味しいですよ。元就さん、食べないんですか?』