第41章 掌中之珠(しょうちゅうのたま)
(あぁ、なんか懐かしいなぁ、このやり取り。)
『ふふっ。』
思わず笑いをこぼすと、秀吉が ひなの顔を覗き込む。
『ひな、本当に大丈夫か?痛む所はないか?』
『はい!大丈夫ですから、そんなに心配そうな顔しないでください、秀吉さん。』
『いや、しかし…。』
と続ける秀吉を押し退けて、信玄が隣に座る。
『ひな、お前はもう信長の影武者など、やらなくていいんだろう?』
(影武者?あぁ、そういう解釈になってるのね。)
『はい、そうですね。信長さまも戻って来られた事ですし。』
チラリと高座に座る本家・信長を盗み見る。「織田軍の忍になれ。」と半分脅しながら佐助を口説いているみたいだ。
『それなら、躑躅ヶ崎館に来ないか?』
『え?つつじ…なんですか?』
『躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)。甲府にある信玄さまの居城。
俺と信玄さまは、普段そこで暮らしてる。山と川に囲まれた静かで いーいとこだぞ。』
横から幸村が教えてくれた。
ひなは少し戸惑っていたが、ためらいを捨てて答えた。
『ありがとうございます、信玄さま。幸村も。でも、今は…早く安土に帰りたいです。
だから、ごめんなさい!』
そう言って深く頭を下げる。
『いや、困らせるつもりは無かったんだが。それじゃ、落ち着いたら遊びに来ておくれ。いつでも待っているからな。』
『はいっ!』
『俺は信玄ほど のほほんとしていないぞ。』
二人の間を割って謙信が口を挟む。
『春日山で閨房(けいぼう*夫婦の寝室のこと)を用意して待っているからな。』
『や、それはちょっと…。』
無意識に後ずさるひなを、色の違う瞳が射る。
『はーい、謙信さま、ひなさんが ぞわぞわっとするようなこと言わないでくださーい。』
謙信の体を やんわりと佐助が押し退けた。
(わわっ、謙信さまの目が怖い…。佐助くんにしか、こんなこと出来ないよね。)