第40章 最寒松柏~足利義昭 京都編
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時を同じくして、二条城・二の丸内。
『ん…。』
ひなが ぼんやりと眼を開ける。俯いたまま横を向くと、立派な松の画かれた障子が見える。
(ここ、何処!?広間みたいだけど…あんな襖、見たこと…ないな。)
頭が痛む。何か薬を嗅がされ眠っていたらしい。視線を戻すと、どうやら床几(しょうぎ)に座っているようだ。
左腕の包帯はほどかれ、後ろ手に縛られている。
『ようやっと目覚めたか、魔王。』
聞き覚えの無い声が耳に入ってきた。顔を上げると黒い烏帽子(えぼし)を被り、ひなを蔑むように見つめる男がいる。
『ここは何処…ですか?』
ひなは、まだ焦点の合わない眼で尋ねた。
『貴様の質問に答えてやる義理はないが、特別に教えてやろう。ここは京の二条城だ。』
(京都?この人って、もしかして…。)
『義昭さま、信長も目覚めたことですし、今のうちにさっさと契約を締結致しましょう。』
『うむ、そうだな。』
(やっぱり足利義昭!っていうか、この声…。)
『条件は、織田が持っている全ての領土を明け渡し天下を義昭さまにお返しすること。』
『光秀さん!?』
ひなが一瞬のうちに正気を取り戻した。
『おや、意識もはっきりしたようだ。』
口の端を上げて光秀が笑う。
『どうして光秀さんが…その人に加担してるんですか?』
(光秀さんは織田軍の…本家・信長さまの忠実な部下じゃ無かったの!?)
『…どうして?うーむ、相変わらず信長さまは返答に困る質問をなさる。』
少しの間 顎に手を当てて考えていた光秀が、ポンと手を打ち言い放った。
『あなたが嫌いだから、でしょうか。』
あまりに真っ直ぐに否定されて言葉が出ない。
『くっくっくっ。それくらい解りやすく申せば、この盆暗(ぼんくら)にも伝わるであろう。
さあ信長、この書状に血判を押せ!』
義昭が書状と小刀をひなの足元に放り投げる。
その声を合図に、義昭の家臣が拘束を解き、ひなの腕を自由にした。