第39章 再寒松柏~帰蝶 商館編
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商館の外では、謙信が二階の窓をうかがっていた。
窓にぎりぎり届くかという所に木が植わっており、その幹に足をかけると、兼続が器用に登っていく。
『いいな、兼続。合図であの部屋に攻撃を仕掛ける。』
謙信が囁く。木の上で、兼続が こくりと頷いた。
ーカチャッー
その時、不意に二階の窓が開く。謙信と兼続が同時に刀の柄を握りしめた。
息を潜めて目を凝らすと、緊迫した空気に不釣り合いなフニャリとした笑顔が覗いていた。
『信長さま?』
兼続が小さく名を呼ぶ。
謙信も不可解な物でも見るような目をしている。
『皆さん、そこにいるんですよね?どうか武器を収めてください。』
ひなが暗闇に声をかける。
暫しの沈黙の後、信玄が窓の下に進み出た。
『ひな、どういうことだ。』
『信玄さま!』
それを見つけ、嬉しそうにひなが続ける。
『ええと…詳しい説明は後にしますが、元就さんと和睦の約束をしました!』
『和睦だと!?』
謙信も驚きに歩を踏み出した。
『あっ、謙信さまも!はい、たった今。』
背後から、ゆったりと元就も顔を出し、ひなを覆うように窓枠に両手を着く。
『俺としたことが、誰よりも破天荒なお殿様に骨抜きにされちまったみたいでな。』
にやりと笑い、ひなの横顔に頬擦りをする。
『きゃっ!ち、ちょっと、元就さん!』
『てんめぇ、何してやがる!』
殴りかからん勢いの幸村を羽交い締めしながら、佐助も声を上げる。
『ひなさん、怪我はない?』
『ありがとう、佐助くん。平気だよ。』
元就の体を両手で押し返しながら、ひなが答える。
押し返す腕に少しの違和感を覚え、何気なく左腕に視線を落とす。
『あ…れ?』
『ん?どうした?』
元就もひなの視線の先を追う。