第39章 再寒松柏~帰蝶 商館編
『お前、俺を笑わせて どうするつもりだ?』
『どうするも何も…笑わせてるつもりはありません。』
ひなが眉を潜めて そっぽを向く。
その顎に、白い手袋をした指を這わせて振り向かせる。
『なあ、お殿様よ。必要なくなれば義昭は いずれ、あんたを殺すだろう。
だが、その後あの義昭が日ノ本の頂点に立ったら、俺もどうなるか解らねえ。
俺は いっぺん、この日ノ本をぶっ潰す。そして、よりよい日ノ本を再興するつもりだ。
俺を手伝え。そうしたら義昭の手から掬い出してやる。』
[自分でも、なんで信長相手にこんなこと言ってるのか解らねぇが、こいつを失うのは惜しい。]
不安げな瞳で黙って聞いていたひなが、ぐっと下唇を噛んだ。
『たとえ…この命が無くなっても、その案に賛同することは出来ません。
この国には、たくさんの人達が暮らしています。そんなことしたら多くの命が犠牲になるかもしれない。
なんて…あなたが前に言ったように大義の為と人殺しもやってきた私達が言える事じゃ無いのは良く解っています。
でも本当にもう犠牲になる人を見たくないんです。』
… … …
『今さらなに温いこと言ってやかる。今までの貴様は、大義のため、大義のためと、何人もの命を奪って来ただろうが!
天下人になって日ノ本の頂点に立った後はどうする?
次は民を奴隷にして外国でも滅ぼすか?
そんな悲劇が起こる前に、この国は俺がこの手で派手にぶっ壊してやるよ。』
… … …
[火事場で言ったことを覚えてたのか。]
『考えてみりゃあ俺も人に言えた義理じゃねぇな。俺だって何人も殺めてる。後悔してるわけじゃねぇがな。』
遠い目で元就が言う。視線を戻すと、ひなが真っ直ぐな瞳で元就を捉えていた。
『元就さん、それは後悔している人の目です。』
元就の手に自分の手を重ねる。
『後悔している者同士が上手くやっていける方法が ひとつだけあります。
私と、同盟を結んでください。』
『あ!?』
[俺が信長と同盟を結ぶだと?こいつ、何言ってやがる。頭 大丈夫かよ。今まで俺が こいつらにやったこと忘れたのか?]