第39章 再寒松柏~帰蝶 商館編
赤い顔で俯くひなを まじまじと見つめながら、元就は考えていた。
[義昭は信長を捕えろと言ったが、さて、この後どうしたもんか。
義昭の所に連れて行かれりゃ、いずれ殺される事は目に見えてるしな。]
どっかとひなの隣に腰を下ろす。
『な、なんでここに!?あちらの方が広いですよ!』
目を見開いたひなが、対面のソファーを指差す。
『人肌が恋しくてな。』
今度は危険を感じているのかひなの顔が青くなる。
[くっくっ。今の信長は面白過ぎだな。思ってること全部 顔に出てやがる。]
『ま、茶でも飲めよ。これは俺が英吉利(イギリス)で仕入れた「紅茶」ってやつだ。まだ日ノ本には出回ってねぇ希少品だ。』
ひなが、じっと元就を見ている。
『はっ!大丈夫だ、変な薬なんか入ってねぇよ。』
そう言われ、恐々カップを傾けてひながゴクリと一口飲んだ。
『ん、美味しい!アールグレイですね。』
『あ?この茶には色々と種類があんのか?』
『はい、アールグレイはイギリスで好んで飲まれている紅茶の筈です。あと、他にもアッサムとかセイロンとか。ダージリンも美味しいですよ。』
目を輝かせてひなが話す。
[なんだ?急に嬉しそうに…。
って、あの売人『日ノ本には絶対にまだ出回ってない』なんて言ってたが、騙しやがったな。]
『滅茶苦茶 詳しいじゃねぇか。』
はっ!とした顔でひなか付け足す。
『あー、いえ、私も色んな国から贈り物を頂くので。』
[なるほど。他の国にも あるのかもしれねえな。]
『元就…さんは飲まないんですか?』
『は?俺は俺以外が用意したもんは受け付けねえ。何が入ってるか解ったもんじゃないしな。気を付けるにこしたことねぇだろ。』
『えぇっ、そんなぁ!!もう飲んじゃった…。』
ひながカップを見詰めて固まる。
『くっくっ…あっはっは!』
元就が急に笑い出したものだから、ひなは きょとんとしている。