第37章 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)
『お、戻って来たぜ。』
幸村の声に顔を上げると、秀吉が にっこり微笑みながら戻ってきた。
『快く貸してくれるそうです。着物はすぐに用意致しますので、その濡れたお召し物を脱がれていて下さい。
…幸村も、その隣の民家で着替えろ。』
『あ?俺…も?』
『ああ。お前だって濡れ鼠だろ。風邪ひいて大事な戦の時に寝込んだら大変だ。』
『…。』『…。』
ひなは幸村と顔を見合わせて吹き出した。
『ほんっと秀吉さんって世話焼きなんだから。』
『いや、これは世話焼きとかではなくて、困っている奴は放っておけないだけというか…。』
あたふたしながら答える秀吉に、幸村が淡々と言い放つ。
『それを世話焼きって言うんじゃねえの?』
幸村の言葉に、秀吉が固まった。
『ふふっ。私は、誰にでも分け隔てなく優しくしてくれる秀吉さん、好きだよ。』
『俺も。いつも世話してる方だから、嬉しいぜ。恩に着る。』
二人に礼を言われて照れ臭そうな秀吉だったが、思い出したように真面目な顔になる。
『信長さま、もうすぐ花火が打ち上がります。さ、替えの着物をお持ちしましょう。あちらへ。』
三人は揃って民家へ歩き出した。
… … …
急いで 秀吉が用意した着物に着替え、民家の主(あるじ)に礼を言う。
…そろそろ夜五つ。
対岸に目を凝らすと、ちらちらと小さな光が左右に揺れている。
(松明(たいまつ)…?)
『打ち上げの合図だ。』
秀吉の声から遅れること数秒。
ドォォォーン!パラパラパラ…
町の喧騒を切り裂いて、夜空に大輪の花が咲く。
『た~ま屋~!』
『か~ぎ屋~!』
人々が空を見上げて声を上げる。
その瞬間、ザザザッ!と言う音と共に、ひな達の回りを海賊風情の男達が取り囲んだ。
(いつの間に!?さっきまで こんな人達いなかったのに!)
『くそっ、人数が多すぎる。』
秀吉が小声で舌打ちする。
『十文字槍があれば、この程度の雑魚 ぶっ飛ばせるんだけどな。目立つと思って生憎 置いてきた。』