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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第37章 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)


そして、包帯で吊られていない右腕全体で抱え込むように目隠しをした。


『だーれだ?』

『!?』


ぴくりと法被姿の肩が揺れ、静かな声がした。

『…なにをする。』

(あれっ!?)


聞いたことの無い低い声音に、ハッとする。

(えっ、慶次じゃない!)


ゆっくりと振り向いた顔には、額から左頬にかけて大きな傷があった。

その驚きよりも、吐息がかかる程の距離に動転する。

『わっ!ご、ごめんなさい!』

ひなが慌てて顔を引く。

『知り合いと法被が似ていたもので…。』

落ち着いて良く見ると、男の着ている法被は、菖蒲の刺繍があり少し青みががった紫色をしている。

慶次の法被は、牡丹の刺繍が入った赤紫色だった。

夕日のせいで色を見間違えたのか、恥ずかしさで顔が赤く染まる。


男は何かを考えるように、じっとひなを見据えていた。


(やばーい…この人、怒ってる!?顔の傷といい、そっち系の人だったらどうしよう。

いや、そもそも この時代に そっち系の人っているのかな。)

不穏な妄想を巡らせていると、不意に男が目を見張った。


『貴様…まさか!』


(まさか?)

首を傾げるひなに、男も同じく戸惑っているようだ。


『あの…何処かでお会いしたこと、ありましたっけ?』

思いきってひなが口を開く。

だが、男は平静を取り戻したかのように、静かに告げた。

『同じ人間とは到底思えぬ。貴様、本当に記憶が混濁しているのだな。

でなければ、10年争い続けている相手の傍ら(かたわら)にあって、そんな呑気な顔は出来まい。』

(10年争い続けて、って…。まさか!?)

『顕如…さん?』

無意識にその名を呼ぶと、ふっ、と顕如が苦笑いを浮かべる。

『まさか貴様に「さん」付けで呼ばれる日が来ようとは。妙な気分だな。』

(あっ…そうだよね。本家・信長さまが「さん」付けで呼ぶのは おかしいかも。)

『けっ、けんにょ!…サン。うぅっ…。』

(ダメだぁー!知らない人を呼び捨てにするのに慣れてないっ。)

『ふっ。』

堪えていたが溜まらず、といった感じで顕如が笑った。

『今の貴様となら、打ち解けられたのかも…しれんな、女信長よ。』
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