第37章 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)
『家康、ありがとう。』
『…どういたしまして。信長さまは秀吉さんの背中に隠れててくださいよ。』
『ふふ、解りました。それじゃ私はここで。みんなも気をつけて。』
『はい、信長さまも お気をつけて。』
満面の笑顔の三成と、そっけなくも優しい家康に送り出され、打ち上げ場所を後にする。
『まだ打ち上げには少しあるな…。信長さま、少し出店を見て回りますか?』
『えっ!?いいの?』
ひなが思わず声をあげる。
『コホン!なるべく目立たないようにすると約束してくださるなら、少しだけ、です。』
ひなは小さく右手を上げて(やったー!)と声を出さずに喜んだ。
『ふっ!それでは逆に目立ちそうですね。』
秀吉が笑いながら言う。
『ですね。』
ひなも つられて笑う。
『秀吉さま!!』
その時、慌てた声が聞こえてきた。
(なんだろう?)
声のした方を見ると、家臣らしき人が
『あちらで いさかいが起こっているようで!一緒に来て頂けませんか?』
と困り顔をしている。
『秀吉さん、私は目立たないように この辺りにいるから行ってきて。』
少し戸惑いながら、『すぐに戻ります。』と秀吉は家臣と一緒に走り去った。
その姿が見えなくなるのを見守り、ひなは辺りを見渡した。
政宗が言っていたように、人混みの中にはチラホラと気になる人影がある。
(元就軍の部下の人達は海賊で、海に出てるから肌が浅黒いって言ってたな。
あ、あと顕如軍の部下の人達は みな黒装束を身に纏ってる、とも言われたっけ。)
ひなは軍議の際、武将達から教えられた敵の身なりを思い出し反芻する。
なにげなく見つめた出店の前に長椅子が置いてあり、そこには派手な法被(はっぴ)姿の男が背を向けて座っていた。
(あ、慶次だ。)
頭の後に狐の面をつけていて顔は見えないが、あんなに派手な法被を着る者はそう、いないだろう。
(…驚かせちゃお。)
悪戯心(いたずらごころ)がムクムクと湧いて、ひなは男の背中に そっと近付いた。