第37章 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)
『あぁ、昨日から2日がかりで仕上げた。花火玉の選定は家康がやってくれてな。
ちなみに家康が作った物もある。』
『えっ!?そうなの?』
『薬の調合に通じるものがあって、つい。』
興味なさげに家康が答える。
『そうなんだ。二人とも、ありがとう。打ち上げられるのがどんな花火なのか楽しみだよ。』
ビルが立ち並んで真夜中まで明るい現代とは違い、この時代は夜の帳(とばり)が降りると本当に真っ暗になる。
(きっと物凄く綺麗だろうなあ。)
思わず笑顔が溢れる。
『ま、のんびり見てる暇は、無いかもだがな。』
その言葉に、家康の声も硬くなる。
『なにか動きがあったんですか?』
『ああ。もう既に あっちこっちに顕如と元就の手下共が潜り込んでるぜ。
なんらかの合図で事を起こすのは間違いねぇな。』
ひなは、首から吊し包帯で捲れた左腕を そっと撫でる。
『仕掛けてくるとすれば打ち上げの前後ですかね…。かなりの騒音でしょうし。』
『ま、間違いねぇだろうな。花火が打ち上がりゃ、人は空を見上げる。
意識も一緒に、な。』
政宗が上を指差す。
『だから花火の日は物取りも横行する。』
ボソッと家康も呟く。
(確かに…。)
『今が暮れ六つ。打ち上げの夜五つまでに、妙な輩に狙いをつけておくぜ。』
『信長さま!家康さま!』
打ち上げ台の向こうから、ひな達を呼ぶ声がする。掛けてくる人影は、三成と秀吉のようだ。
『秀吉さん、三成くんも。警護、ご苦労様。』
『信長さま!こちらにいらっしゃったのですね。家康も、あまり うろうろしないようにな。』
秀吉に諭される。
『はぁ、すみませ…。』
無表情で答える家康を遮って、ひなが弁明した。
『ごめん、私が家康に無理やり着いてきたんだ。偵察もかねて賑わってる町中を見たい、って。』
『ん?そうなのですか?それなら仕方ありませんが…。家康、信長さまの護衛は代わろう。
お前は政宗と ここに残ってくれ。』
『…解りました。』
隣で、家康が不服そうに ひとつ返事をする。