第5章 政宗
ぐー。
…悩んでいても お腹は減る。
(せっかく政宗が作ってくれたんだ。暖かいうちに頂こう。)
『…んっ!?美味しい!』
青菜と卵が入っているお粥は見た目では解らないが、しっかりと出汁が効いていてとても美味しい。
(政宗って料理上手なんだ。なんかホッとする味だなぁ。)
『信長さま、失礼致します。』
誰かと思えば、今考えていた政宗、その人だった。
『粥のお味は如何でしょう?』
『うん、すっごく美味しいよ。』
笑顔で ひなが答えると、一瞬 政宗が目を見開いて、
『信長さまがおかしいっていう、秀吉の意見は正しかったんだな。』
とブツブツ呟いている。
『何がおかしいって?』
ひなが思わず尋ねる。
『いえ、秀吉のやつが「信長さまは本能寺を後にしてから意識が混濁しているようだ」と騒いでいまして。
俺も、信長さまには「料理の味などどうでもよい」と言われた覚えしか無いもので驚いていたところです。』
(こんなに美味しい料理をどうでもいいなんて。
信長さまって どんな人だったの!?にしても秀吉さん、鋭いな。
あ、アナタハダーレ?って聞いちゃったんだっけ。)
『うん、実は少しね…。火事が衝撃的だったせいかな、忘れてしまっていることとかあって、ね。』
(うっ、我ながら下手な言い訳。)
『へぇ~、変われば変わるもんだ。子供も平気で殺せと言う信長さまが、火事に驚くとはね。』
(滅茶苦茶 怪しまれてる?)
『面白い。信長さまも一応、普通の女子(おなご)だったということですかね。それでは、ごゆっくり。』
唇に笑みを浮かべ政宗が部屋を出た。
ピシャリと障子を閉めて、
『今の信長さまも、なにやら楽しませてくれそうだな。』
とニヤリと笑った。