第36章 狂乱怒涛(きょうらんどとう)
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時を同じくして、境の港では、元就軍が着々と装備を整えていた。
『頭(かしら)、積み荷は殆ど降ろし終わりました。』
『ああ、解った。』
英吉利(イギリス)からの積み荷には、多くの武器・弾薬が、装飾品や衣料品に紛れて輸入されていた。
南蛮船の陰で、元就は銀製のキセルに火をつける。
ひと吸いして静かに白煙を燻らせた。その煙の中に、これから戦う相手である信長の顔を想い出す。
(大砲の威力は重々解ったはずだ。それなのに、戦の前に花火大会かよ。
肝が座ってんだか、呑気なんだか。)
… … …
『あんな小さな子供を、汚い大人の謀(はかりごと)に巻き込むなんて。
あなたは、そんなに心が卑しいんですか!?』
… … …
『元就…さんは、お怪我ありませんか?』
… … …
肩の火傷も、もう治った頃だろうかと思っていたが、経過が思わしくないという情報が入った。
弱っているのは好都合。
さっさと倒れてくれれば、無駄に兵隊や弾薬を使わなくて済む。
いいことじゃねぇか。なのに…。
カンッ!
『くそっ…。』
船体にぶつけるたキセルから細かい灰が落ちる。
元就の心の揺らぎのように風に乗って、はらはらと飛んで行った。
『たいして知りもしねぇ女だ…ましてや これから殺し合いしようって奴のことが なんでこんなに気になるんだ。』
苛立ちながら歩き出すと、紫色の法衣を着た男が歩み寄ってきた。
『あん?なんだ、あんたか。』
男は額から左頬にかけて大きな傷がある…顕如という元・本願寺の僧侶だった。
『俺達が ちゃんとやってるか気になったか?にしても、ここじゃその格好は目立ち過ぎだぜ、ご住職。』
不適な笑いを浮かべる元就に対し、顕如は その相好を崩さず淡々と語る。
『これは私の普段着だ。お前のように始終目立ちたいからではない。』
その言葉に、元就の背後で肌の黒い元就軍の部下達が武器に手を掛けた。
顕如の後では、何処からか出てきたのか、黒装束の男達が、同じく刀の柄を握る。