第36章 狂乱怒涛(きょうらんどとう)
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少しの後、京・二条城にて。
『信長め、大人しく坊主に殺られてしまえばよいものを!
本願寺の坊主も坊主よ。寺ごと焼いておきながら仕留め損ないおって!!』
『落ち着いて下さい。心配されずとも程無く義昭様の望む世になりましょう。』
怒りに顔を歪めるのは、時の征夷大将軍・足利義昭。
そしてそれをなだめるのは、元・織田軍の武将、帰蝶である。
『これが落ち着いていられるか!協力を仰いだ上杉謙信も武田信玄も、死んだと聞かされていたのに生きておる。
その上、二人と手を組んだなど…ありえぬ!』
語気荒く義昭が言い捨てる。
その姿を、帰蝶は暫く黙って見つめていた。
『…なにか策は無いのか!信長が のうのうと生きていると聞いただけで、虫酸が走るわ。』
『近々、元就が顕如と共に織田に攻め入る手筈になっております。』
それを聞いて、ムッとした顔で義昭が言う。
『帰蝶よ。貴様そう言って先日も失敗したのではなかったか?物忘れの良い脳味噌よのう。』
嫌味を言われながらも帰蝶は表情を崩さない。
『先日の件は言い訳すらございません。しかし、此度は必ずや信長を亡き者にしてみせましょう。』
『その根拠は?』
一呼吸置き、瞳に光を宿して帰蝶が答える。
『私も、出ます。』
『…いつも裏で巧妙に糸を引いている貴様が、表舞台に立つ、ということか?』
義昭が問いただす。
『はい。元就軍の中に『帰蝶は我が身可愛さに、表に出て闘わぬ臆病者だ』などという輩がおりまして。
言われっぱなしでは さすがの私も憤慨致します。』
『ふん、嘘をつけ。貴様の表情は能面のように、さっきからちょっとも変わっておらんではないか。
まあ、よい。信長の首さえ取れれば満足じゃ。
さっさと信長を仕留めて、その首を私の前に持ってくるが良い。』
『御意。』
帰蝶は短く答えると、一礼をして広間を去った。